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メイド in Paradise




『イヴァン様……イヴァン様、動かないで下さいませ。もう少し、ですから』

『あ、ああ……悪ィ。つーか、こんなコトしなくてもいいんだぜ? そういうつもりでお前を受け入れたワケじゃ――』

『私がさせて頂きたいんです。……あっ、ダメ。暴れたら、傷が付きます…!』

『んっ……。……ッ、くすぐっ、てえ。……おい、もっと深く……』

『あ……こう、ですか? イヴァン様……ん…、よく、見えな……。あ……硬い……』

『はぁ……っ。お……、っ…すげえ、イイ。続けろ……っ』

『は、はい……っ。嬉しいです、喜んで頂けて――。もっと探しますね。イヴァン様の、いいところ……』

『っ……。く、はぁ……っ。なんだコレ、すげえ、ぞくぞくする……』

『あ、ここ……すごい……。あ……こんなにたくさん……。ふふ、イヴァン様、溜まっていましたか?』

『う、うるせぇ……!』



「………」

 そびえたつドアの前で、金髪のラッキードッグ…ことカポ・ジャンカルロは、ドアノブに手を掛けたまま硬直していた。
 中から漏れ聞こえてくる声に、思考はただ一つの回答を導き出す。周囲の護衛たちが同じようにオロオロと視線を交わし合い、ジャンは一つ溜息をつくと、意を決してドアノブを回した。


「ちょっとちょっと! 本部の中でナニしてくれてんのかなぁ〜!? この子たちは! ――って、え……?」

「ああ…? ジャン?」

「……ジャンカルロ様」


 室内のソファーに陣取っていたのは、最年少幹部イヴァン・フィオーレと先日本部付きになったばかりの可憐なメイドのだ。
 だが想像したのと違って、二人の衣服はこれっぽっちも乱れていなかった。ただし、ソファーに腰掛けたの膝に、イヴァンの頭が乗っかってはいるが。


「えと……耳、かき?」

「…! い、いや違う、これはだな! お前が来るまでヒマだっつったら、こいつがやってくれるって言いだして……!」

「……ジャンカルロ様……」

 赤く上擦っていくイヴァンの声とは対照的に、ジャンの名を呼ぶの声は一オクターブずつ下がっていっている。
 イヴァンの方は耳かきの快感に浸っていたようだが、の方はとろんと眦が潤んでいた。……イメージプレイしてたんですね。そうですね。

 ゴゴゴ……と見えない圧力に押されて思わず引きつったジャンへ、がにっこりとブリザードな笑顔を向けてお辞儀した。


「……お帰りなさいませ、ジャンカルロ様。イヴァン様ともどもお待ちしておりました。……けれど、一つだけお話が」

「……な、何カナ?」

「東洋のある国に、このような格言があります。『人の恋路を邪魔するものは――』」

「するものは……?」

「『ヴァルキリーに轢かれてミンチになった挙句、ザリガニの餌になりやがれ』です」

「!! ちょ、それ、俺の知ってる格言とだいぶ違うんだけど!!? そんなにヒドい言葉じゃなかったよな!?」

「私の辞書には、そう記されています」

 すす…と立ち上がったが、再び優雅にお辞儀をする。その美しい所作を見やり、イヴァンが一言。


「お前、やっぱすげえなあ。博識じゃねーか」

「イヴァン様…♥  そんな、お恥ずかしいです。これぐらい常識ですよ。ではコーヒーを入れてまいりますね! イヴァン様には、うんと熱くて濃いものを…!」

「ああ。……っと、火傷すんなよ?」

「イヴァン様、お優しい…♥  私の心はイヴァン様に会ったあの日に、とっくに火傷していますよ」

「タ、タコ……。馬鹿言ってんじゃ、ねえよ……。ほら、さっさと行けって!」

「すぐに戻ってまいります……!」

 ハートを飛ばし始めた二人に、ジャンの頬が引きつる。カポはデスクを叩くと、涙目で叫んだ。


「ウン、ていうかここな、俺の執務室だから! お前らの逢い引き部屋じゃないからな!? ……マジで爆発しろ。ていうかお前が逝っちまえ、素人DT」



 ――カポの苦難は、今日も絶えない。





 END



拍手お礼でした。メイドシリーズもなにげに3作目なんですね。
メイドがイヴァンをモノにする…もとい、結ばれる日は、たぶん来ない(笑)

(2011.9.20)