教えて! ドクトリーヌ

 


 CR:5本部の敷地内には、構成員の健康管理および非常時の手当てのために医務室が設けられている。

 女人禁制かつ消毒薬臭いその場所に、好きこのんで近付く輩は今まで皆無に等しかった。足しげく通っていたのはカヴァッリ顧問ぐらいのものだ。
 だが先日から「とある」理由のために、医務室利用者が急増した。

 専属医師がぎっくり腰になり、代わりに駆り出された彼の娘…ドクトリーヌが、その部屋の主になったのである。

 

 ある朝は――


「チャオー。いてて……ドジっちゃった。女医さん、お手柔らかにネ」

「カポ・デルモンテ……。先日も確か右手をひねったとおっしゃっていましたが。腫れてませんから大丈夫と思いますが、そんなに硬いドアなら部下の方に開けさせればよろしいのでは?」

「ア、ウン、そうねー。――ワオ! いつもながら綺麗な指先。もっと触ってもいいのよ?」

「下手に触ると、痛みを誘発しますので」


 明らかにわざと怪我をしてくるカポの手に、丁寧に包帯を巻いたり。

 

 また、ある昼前には――


「どうしたら、あなたみたいに素敵なスタイルになれるのかしら……。教えて! ドクトリーヌ」

「お嬢様はお若いですし、自然な成長を待たれるのがよろしいかと。それに、『つるぺた』というのも案外人気があるようですよ」

「それじゃダメなの! 彼の好みはボンキュッボーンなんだから。こうなったら豊胸手術かしら……」


 うら若きカヴァッリ家のお嬢様の行く末を心配したり。

 

 午後三時には――


「…………」

「……はい、できましたよ、ドン・ボンドーネ。ナイフのような鋭利な傷は治りにくいですから、お気を付けて」

 寡黙だが微妙に頬を染めたソルダートに絆創膏を貼りつけ、

「………また来る」

 そして、無言で日参されたり。

 

 思えば、先週の今頃には――


「……うむ、やはりほうじ茶は美味いのう。『こーひー』も嫌いじゃないが、ワシにはちと渋くてのう。お嬢は好きなようじゃが。眠気覚ましによく飲んじゅう」

「そうですか。幹部、しかも紅一点となれば、色々と苦労されることも多いのでしょうね」

「そうじゃの。……おんしのところに来ると日本語で話せるき、癒されるぜよ。今度お嬢を連れてくるき、話を聞いてやってくれんかの」

「私で良ければ、いくらでも」


 主人想いな、強面スキンヘッドの大男に粗茶を出したり。

 

 また、いつもの夕方には――


「ボス・フィオーレ。動かないでください。包帯が巻けません」

「う、うるせえ! テメーのやり方、見てて危なっかしいんだよ! 貸してみろ、ヘタクソ!」

「あ……指が……。……大丈夫ですか? 急に熱が上がったようですが」

「ッ……」


 手当てしようとしたところを暴れられ、手が触れると発熱かと思うぐらい顔を真っ赤にされたり。

 

 先日のお昼前には――


「……はい、いつもの塗り薬です。古傷だからと言って、無理は駄目ですよ、フェルフーフェンさん」

「はい〜。あなたのお薬は、市販のものよりよく効くので助かります。……しかしまあ、アレですねえ」

「……アレ?」

「いえね。……『白衣萌え』というのも、なかなかどうして侮りがたいですよねえ」


 そう言って、丸眼鏡の奥の薄い色の瞳を細められたり。

 

 そういえば、いつかの黄昏時にも――


「すまない…5分だけ、話し相手になってもらえないだろうか……」

「5分と言わず休んでいって下さい、ドン・オルトラーニ。……睡眠剤でも処方しますか? 楽になりますよ」

「いや、いい。……ここにいると、落ち着くんだ……」


 多忙な幹部筆頭の緊急避難所&カウンセラーに早変わりしたり。

 

 いつだったか、陽が翳り始めた暗い部屋で――


「くそ……あのスケコマシ赤毛野郎、お嬢にベタベタしやがって……。そろそろヤキ入れてやろうか」

「去勢手術なら、私の知り合いに上手いドクターがいますよ。……ご紹介しますか?」

「い、いや、そこまではいい。……俺も日陰者だが、お前さんも相当なモンだな」


 これまた、ちょっと行きすぎなぐらい主人想いなサングラス男の顔色を、逆に青くさせたり。

 

 思えば、昨日の夜も――


「お前の真剣な顔が見れるなら、怪我も悪くないな」

「ドン・グレゴレッティ。私の顔を見ても血は止まりません。……? なぜ顔を近付けるのですか? 顔面に切創はありませんよ」

「いや、唇が切れちまってなぁ。……お前が舐めてくれたら、すぐに治るんだが」

「雑菌が入ります。まずはアルコールで消毒を」


 顔を近付けてガン見してくる赤毛の大男に、ピンセットに挟んだ綿球を突き付けたり。

 

 前回の、月のない夜には――


「グッッッイーブニンッ!? エッロい白衣の女医チャン、これこれ、俺の傷、見てくれヨゥ!」

「……ささくれですね。消毒さえしっかりしていれば、明日にも治ります」

「ハッハァ!! いつもながら素っ気ない態度! 痺れるゥ! ……あ、チクワ、食うケ?」

「結構です。……というかあなた、どちら様ですか?」


 突然現れた怪鳥のような大男に、見慣れぬ食品?を差し出されたり。

 

 そして、いつかの夜半には――


「どうも角度が悪くてなあ……。どうにかならんか、ドクトリーヌ」

「カポ・デルサルト……。ですから、バイアグラは出せないとあれほど何度も――」

「ならマカでもガラナでもスッポンでも構わん。頼む! この通りだ」

「……仕方ないですね。では高麗人参を調合しましょう」


 初代カポの極秘依頼を、溜息と共に引き受けてみたり。

 

 そんなこんなで、彼女は多忙である。そして今日も――


「ドクトリーヌ! ちょっと聞いてほしいことが――」


 彼女の部屋には、受診希望者が後を絶たない。





 END




拍手お礼でした。クールな女医の逆ハーレム…ですが、一番いい線いってるのはラグじゃないかと思います。
R様よりアイデアを頂きました。ありがとうございました!

(2011.9.20)