女人禁制かつ消毒薬臭いその場所に、好きこのんで近付く輩は今まで皆無に等しかった。足しげく通っていたのはカヴァッリ顧問ぐらいのものだ。 専属医師がぎっくり腰になり、代わりに駆り出された彼の娘…ドクトリーヌが、その部屋の主になったのである。
ある朝は――
「カポ・デルモンテ……。先日も確か右手をひねったとおっしゃっていましたが。腫れてませんから大丈夫と思いますが、そんなに硬いドアなら部下の方に開けさせればよろしいのでは?」 「ア、ウン、そうねー。――ワオ! いつもながら綺麗な指先。もっと触ってもいいのよ?」 「下手に触ると、痛みを誘発しますので」
また、ある昼前には――
「お嬢様はお若いですし、自然な成長を待たれるのがよろしいかと。それに、『つるぺた』というのも案外人気があるようですよ」 「それじゃダメなの! 彼の好みはボンキュッボーンなんだから。こうなったら豊胸手術かしら……」
午後三時には――
「……はい、できましたよ、ドン・ボンドーネ。ナイフのような鋭利な傷は治りにくいですから、お気を付けて」 寡黙だが微妙に頬を染めたソルダートに絆創膏を貼りつけ、 「………また来る」 そして、無言で日参されたり。
思えば、先週の今頃には――
「そうですか。幹部、しかも紅一点となれば、色々と苦労されることも多いのでしょうね」 「そうじゃの。……おんしのところに来ると日本語で話せるき、癒されるぜよ。今度お嬢を連れてくるき、話を聞いてやってくれんかの」 「私で良ければ、いくらでも」
また、いつもの夕方には――
「う、うるせえ! テメーのやり方、見てて危なっかしいんだよ! 貸してみろ、ヘタクソ!」 「あ……指が……。……大丈夫ですか? 急に熱が上がったようですが」 「ッ……」
先日のお昼前には――
「はい〜。あなたのお薬は、市販のものよりよく効くので助かります。……しかしまあ、アレですねえ」 「……アレ?」 「いえね。……『白衣萌え』というのも、なかなかどうして侮りがたいですよねえ」
そういえば、いつかの黄昏時にも――
「5分と言わず休んでいって下さい、ドン・オルトラーニ。……睡眠剤でも処方しますか? 楽になりますよ」 「いや、いい。……ここにいると、落ち着くんだ……」
いつだったか、陽が翳り始めた暗い部屋で――
「去勢手術なら、私の知り合いに上手いドクターがいますよ。……ご紹介しますか?」 「い、いや、そこまではいい。……俺も日陰者だが、お前さんも相当なモンだな」
思えば、昨日の夜も――
「ドン・グレゴレッティ。私の顔を見ても血は止まりません。……? なぜ顔を近付けるのですか? 顔面に切創はありませんよ」 「いや、唇が切れちまってなぁ。……お前が舐めてくれたら、すぐに治るんだが」 「雑菌が入ります。まずはアルコールで消毒を」
前回の、月のない夜には――
「……ささくれですね。消毒さえしっかりしていれば、明日にも治ります」 「ハッハァ!! いつもながら素っ気ない態度! 痺れるゥ! ……あ、チクワ、食うケ?」 「結構です。……というかあなた、どちら様ですか?」
そして、いつかの夜半には――
「カポ・デルサルト……。ですから、バイアグラは出せないとあれほど何度も――」 「ならマカでもガラナでもスッポンでも構わん。頼む! この通りだ」 「……仕方ないですね。では高麗人参を調合しましょう」
そんなこんなで、彼女は多忙である。そして今日も――
拍手お礼でした。クールな女医の逆ハーレム…ですが、一番いい線いってるのはラグじゃないかと思います。 R様よりアイデアを頂きました。ありがとうございました! (2011.9.20) |