終章  - Engage -





 白い白い光が瞼を射す。寝台の中で寝返りを打ったは、その明るさに誘われてぼんやりと目を開いた。

「…………」

 霞む視界に、木目の天井が映る。……久しぶりに深く眠ったような気がする。事実、朝方にこの部屋に帰ってきてライと交わってから一昼夜、はこんこんと眠り続けていた。

(……朝なの……? それとも昼…?)

 覚醒しない頭でうつろに天井を見つめ、隣の気配を探るように手を無意識に動かす。そこに温もりがないことを感じ取り、はゆっくりと首を回した。

(いない……)

 ライはそこにいなかった。けれどに不安はなかった。昨日…いや、一昨日までとは違う。ライは確かに自分の隣に帰ってきたのだと、寝惚けた頭でもそれだけははっきりと覚えている。
 雄猫がいたはずのスペースに腕を投げ出し。はまたとろとろと眠りはじめた。

(そうだ……昨日、たくさん抱かれて……ああ、道理で腰が痛い……。あれ、でもその前に私――)

 覚醒と睡眠の淵をたゆたいながら、はうつらうつらと昨日の出来事を思い出していた。陽光に照らされた室内であったことが、脳裏に鈍くフラッシュバックする。

(私……ライに、迫っ、て……しかも、なんか滅茶苦茶に泣かなかった……!?)


「……ッ!!」

 そこまで思い出し、は寝台から飛び起きた。目を見開き、皺の寄った敷布を見つめる。穏やかに照らされた部屋の中で、今やの体温と心拍数だけが異常に上昇していた。

「う…、わー……」

 ひとしきりこの寝台であったことを把握して、は無意味な溜息を漏らした。
 ……恥ずかしい。閨でのことを素面で思い出すことほど、恥ずかしいことはない。だが自分が言ったことやしたことは間違いなく事実で、誰もいない部屋では頭を抱えたくなった。

「子供じゃないんだから――。……ああでもしょーがない。しょうがないわ、うん。あいつだってきっと流してくれる…!」

 誰にともなく呟き、自分を納得させてみる。しかし顔の火照りは収まらず、は両手で頬を覆った。次の瞬間、何かヒヤリとした違和感を覚え手を離す。そしては目を見開いた。

「……え………」


 左手の、薬指。昨日までは何もなかったそこに――白銀の指輪が輝いていた。






「…!?」

 は慌てて手を返し、それを陽にかざして見た。
 の細い指にぴたりと沿う、花の紋様が彫り込まれたプラチナ。永遠に錆びないその白銀の中央には、白にも薄青にも見える輝石が一つ。

「……っ……」

 誰がそれをはめたかなんて――考えるまでもない。
 は咄嗟に右手で口を覆った。熱い何かが込み上げてきたからだ。



『そういや夕方も、珍しくライが俺に店の場所、聞いてきたっけなあ。――ま、楽しみにしてろって』

『帰ったら……。……何でもない。早く行け』



 その指輪の意味を、は知っていた。ライは知らなかったはずだ。けれど思い当たる節がある。

 今までにない速度で身支度を整え、は部屋を飛び出した。穏やかな光が差し込む窓辺にはが借りてきた本…『二つ杖の生活』が、ただ静かに置かれていた。




 は走った。おそらくだが照れて、部屋から出て行ってしまったはずのつがいの姿を求めて。

「あ、さん! もうすっかり体調はいいみたいですね」

「あんたのつがい? ……ああ、向こうの通りで見かけたぜ」
 
 途中すれ違った新しくできた友に、慌ただしく笑顔を向けて。それでもは走る。



 あの旅立ちの日、はライに誓った。「生涯共にいる。何があっても離れない」と。

 その答えを、今日――ライが与えてくれた。


 
 町のはずれで、の好物である果実を手持無沙汰に放り投げている彼を見つけた。

 はその冷たいように見えて誰よりも温かい白い背に、背後から思いきり抱きついた。













今までも、これからも、道は決して平坦ではないけれど。

口うるさくて、ヤキモチ焼きで……けれど誰よりも強く、優しい。
そんな彼と一緒ならば、どこまでだって行ける。


幸運よりも、奇跡よりも、何より確かな――
ふたり歩んだ軌跡が、永久とわの絆を紡ぐだろう。













――世界を識りたいリビカ ソマリ著

 「二つ杖の生活」

第二章 『二つ杖の生涯』 より抜粋――



結婚:

リビカと同様に、成熟した二つ杖の雌雄は愛情またはその他の理由によって結びつき、つがいを形成していた。

その際いくつかの地域では、つがいの証として指輪を贈り合う風習があったようだ。


左手の薬指にはめられるその輪の意味は、誓約。

生涯を共にすること、そして永遠の愛を誓うものである。








  END



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オリジナルキャラ設定

・アーク:名の由来は「archer-弓を射る者」より。
 大型種の闘牙。浅黒い肌、黒い髪に茶の耳と尾をもつ。冷静かつ穏やかな性格だが、結構天然。フォウの尻に敷かれている。

・フォウ:名の由来は「forge-鍛冶をする」より。
 小型種の闘牙だが戦闘力は他の三匹に遠く及ばない。鍛冶の腕は一級なので本人もそれでいいと思っている。灰色の髪、耳、尾をもつ。

(2008.12.31)