揺るぎなき腕




「――コノエ! アサト! いらっしゃい」

「ああ、久しぶりだな。宿の修繕中以来だから一年ぶりか? 元気そうで良かった」

「うん、元気も元気。アサトも久しぶりね。暗冬中に来れば良かったのに」

「猫が多いのは、苦手だ。……でも、お前がいるからこの宿は落ち着く。お前が元気で俺も嬉しい」


 暗冬から数日が過ぎた冬の日。カウンターに座ったは、訪れた懐かしい顔ぶれに明るい笑顔を見せた。

 コノエとアサト、ふたりに会うのは約一年ぶりだ。
 リークスとの闘いの後、はバルドの宿に居候として残ったがコノエはアサトと旅に出た。宿の再開を待たずしてふたりとは離れたため、会うのは本当に久々だった。は宿帳をめくりながら部屋を確認する。


「まあ暗冬のときはずっと満室だったから、来てもゆっくり話できなかったかも。……あ、でもうちも今日と明日でお休み入っちゃうのよ。大丈夫?」

「何か用事でもあるのか?」

「別にないけど、祭りの前からずっと忙しかったからバルドが少し休みを取ろうって。まあ大掃除をしてちょっと出かけたらすぐ再開するけどね」

「そうか。……で、そのバルドは?」


 少し背が伸びたコノエがきょろきょろと辺りを見回す。は苦笑するとカウンターから立ち上がった。


「ふたりにご馳走作るんだって、市場に買い物に行ってるわ。もうすぐ帰るはず――、なに?」


 立ち上がったにコノエとアサトの視線が向けられる。アサトは澄んだ青い瞳でパチパチと瞬きをした。


「……、服を替えたんだな。綺麗だ。よく似合ってる」

「え」

「うん、優しい色だな。そういう服着てると女将さんって感じがする」

「あー……。はは。私が選んだわけじゃないけど、ありがと……」


 が今身にまとっているのは薄紫色の上着と丈の長いスカートだった。つがいから贈られたそれを褒められ、が少し赤い顔で歯切れ悪く答えると二匹は首を傾げる。


「はい、これが鍵。それじゃ、夕食のときにまた――」

「おー。もう着いたのかあんたら」

「バルド。おかえりなさい」


 そのとき、扉が開いて宿の主人猫が帰ってきた。荷物を抱えたバルドはのしのしと歩くとコノエとアサトを一瞥し、にっと笑う。


「……ん、ふたりとも元気そうだな。コノエはちっと背が伸びたか? アサト、宿の中では爪研ぎするなよ。夕食に美味いもん作ってやるから、楽しみにしてろよー。さて準備だ準備」


 早口でそう告げると厨房の扉を開けて奥に引っ込んでしまう。圧倒されたようにそれを見送った旅猫二匹は、ついでをじっと見つめた。
 アサトのまじまじとした、コノエの少しからかうような視線を受けては戸惑う。


「……? なに?」

「……お揃いだ」

「うん、お揃いだったな。……アンタの服、バルドが選んだんだろ。どうりで似合うわけだ」

「…………。あっ……」


 コノエのひそかな笑みの意味を悟り、の顔がぽっと赤くなる。それに追い打ちをかけるようにアサトがぼそっとつぶやいた。


「あいつ、浮かれているな。と一緒に暮らして気分が上がっているのが分かる。いい歳をしてお揃いだなんて、あいつは恥ずかしい」

「アサト、言い過ぎだって。……はは、まあふたりが幸せそうで良かったよ。だって実はまんざらでもない――、?」


 は顔を覆ってプルプルと震えていた。歯に衣着せぬアサトの物言いに、今さらながら自分たちを客観視して恥ずかしくなったのだ。

 バルドには制服だからと言いくるめられたが、よく考えたら従業員二匹しかいないのに制服も何もあったものではなかった。
 というか、常連客もトキノもゲンさんも誰も指摘してくれなかった。……そういえば、先日来たライだけが呆れたような目で見ていた気がする。


「あの……そんなに気にするなよ? 本当に似合ってるから!」


 慰めるように肩を叩いたコノエに、は小さくうなずくことしかできなかった。









 それから二日後。宿泊客を見送れば休みに入るというその日の朝、起き上がろうとしたは体に異変を感じて再び寝台に沈んだ。
 ――体が、熱い。


(……? 風邪ひいた……?)


「おーい、。遅いぞー。……どうした?」

「ごめん、なんか熱い……」


 先に起きていたバルドが寝台に歩み寄り、の耳をつまむ。そのときピリッと流れた衝撃には身を縮こまらせた。


「んっ……! ……あ」

「あー。……来た、な」


 視線が結ばれ、「それ」が何なのか一瞬で理解する。そういえばそんな時期になるな、と暗冬の前までは覚えていたのにすっかり忘れていた。
 が口元を覆うと、バルドがぽんぽんと頭を撫でる。それすらも刺激になり、は熱い息を吐いた。


「大丈夫か?」

「うん……。起きる……。お客さん、送らないとね」

「おいおい、無理すんなって。俺がやるからあんたは寝てろ」

「でも、常連さんも来てるのに――」

「だ、め、だ。発情してるあんたなんて危なくて表に出せるかよ。なるべく早く済ませるから、あんたはここで待ってろ。絶対外に出るなよ」


 少し怒ったようなバルドに強く諭され、はしぶしぶうなずいた。そんなバルドも、部屋に入ってきてから急に息が弾んだように見える。
 アサトとコノエが昨日帰ってくれて良かった。こんな、発情している姿を見られなくて良かった。

 赤い顔で荒い息を吐くをなんとも言えない苦笑で見下ろすと、バルドは小さくキスをしてから離れた。


「すぐ戻る。……大丈夫だから、待ってろ」









「待たせちまったな。、大丈夫か?」

「……っ……、バルド……」


 それから数刻後、バルドが再び私室のドアを開くとは寝台の上で丸くなっていた。その息はさらに荒く、耳が伏せられている。
 はのろのろと首を上げるとぼんやりとした目でバルドを見つめた。


「お客さん、は……」

「ああ、全員送り出したよ。材料余ってたら昼も開けようかと昨日は思ってたが、今日はもう店仕舞いだ。誰も残ってない」


 バルドが近付きその頬に手を添えると、は目を閉じて小さく震えた。荒い息が漏れ、それをこらえるように眉をきつく寄せている。


「……あんた、つらそうだな。去年よりしんどいんじゃないか?」

「なんで――」

「そりゃあれだ。去年より俺たちの相性が良くなって、波長がさらに合うようになったからだな。去年はまだつがいでもなかったし」


 実際、バルドもこれまで生きてきた中で最も衝動の高まりを感じる発情期だった。朝はまだ平気だったが、こうしてと相対すると身の内の本能が急速に首をもたげていく。
 に触れた手のひらから胸に、そして腰へと落ちていく痺れにひそかに熱い息を漏らすと、が悲鳴のように叫ぶ。


「じゃあ、来年もその先ももっときつくなるってこと……!? これ以上なったら正気でいられないわよ!」

「……っ。いや、さすがに慣れてくれば落ち着くとは思うが……」


 喘鳴するはうっすら涙目になっている。バルドはの叫びに目を見開きながらも、その言外に含まれた意味に痺れるような甘さを覚えた。


「……俺との来年や、その先を考えてくれるのか……」

「……?」


 きっと、は深く考えて放った言葉ではないだろう。今はそんな状態ではないのだから。
 だが、普段なかなか言葉にされることのないの心情をうかがい知り、バルドの中に発情期の情動だけではない熱いものが込み上げた。

 ――愛おしい。満たしたい。奪いたい。すべてを自分のものにしてしまいたい。


……。――ん、ぶ…っ!?」


 髪を撫でるとが喉を仰のける。その唇を塞ごうと寝台に乗り上げたバルドはしかし、下から突き上げてきたものによってその行動を阻まれた。


「バルド……! バルド、バルド…ッ!」

「ッ……。……」


 バルドの襟首を引き寄せ、が強く唇を重ねてきた。牙がガチリとぶつかって音を立てたが痛みはない。発情期の衝動を持て余したが、切羽詰まった様子でバルドに縋りつく。


「お願い、早くして…! 苦しい……!」

「……ああ。……いい子だ。すぐ楽にしてやるからな……」




 深く荒っぽくキスを交わしながらの衣服に手を掛ける。だがはそれを首を振って拒むと、ばっと自ら上着とスカートを脱いだ。
 いつもの夜ならおおむねバルドが脱がせているところだ。羞恥など忘れたかのような大胆な振る舞いにバルドが目を見開くと、下着姿になったがくたりと伏せた。そしてぐっと腰を上げる。


「準備とかいいから……! お願い、早く……」


「…! あんた……なんつー格好を」


 白いレースの下履きに包まれた丸い尻が突き出され、その上の尾が上下に揺れて雄を誘っている。と言っても自身は非常に嫌そうな……いや、羞恥を噛み殺すような表情をしており、自身でも制御できない本能から来る動きを恥じているようだった。


「もう、いや……! 発情期なんて早く終わればいいのに!」

「まあ、そう言うなって。……俺は興奮するけどな。普段は見れないあんたが見られて…な」

「あっ! あっ……!?」


 揺れる尾を掴み、その先端に舌を這わせる。はびくりと震えると体をくねらせた。くっきりとした腰のくびれを目で楽しみながら、バルドは服を脱いでその背に覆いかぶさる。


「だから、準備とかいらないからぁ……ッ」

「そういうわけにゃいかない。今は痛くなくても、傷付けて後から痛むのも嫌だろ。……唇、噛むなよ。誰もいないんだから声も抑えるな」

「無理ぃ……。んあ…っ、ああっ……ン!」


 背中を舐めながら手を腹に沿わせ、下着の間から手を差し込むと乳首はすでに固く尖っていた。下と揃いのレースで目には楽しいが交わりには邪魔なそれを外し、手のひらで乳房を包み込むとの尾がバルドの背を叩く。
 互いの尾が絡められ、全身で誘ってくる雌猫にバルドは熱い息を漏らした。


「……なあ、覚えてるか? この体位。去年の繁殖期も同じだったよな。まああんときは挿れなかったが――」

「知ら、ない……っ。アンタが変態だったことしか覚えてない…っ! ふあぁ……ッ、ああんっ」

「……覚えてるくせに」


 うるさいほどに揺れてしまう尾をかいくぐり、の下履きを引き下ろす。その裏地にとろりと糸が伝い、触れなくてもそこが十分に潤みきっていることが知れた。
 下手に触れれば、それだけでが達してしまうかもしれない。バルドはの腰を掴むと自身の先端をその熱い入り口に擦り付けた。


「……やらしいな。触ってもいないのにヒクヒク動いて。挿れたらアンタ、すぐイッちまうんじゃないか……?」

「知らない……っ。知らない! 焦らさないでよ……ッ!」


 敷布に顔をこすりつけてが悶える。その懇願をどこか心地よく聞きながら、バルドは低く笑った。

「……なんか、ごめんな。俺といるばっかりにつらい思いさせて」

「……? 別にアンタが悪いわけじゃ――、あ! ああ…! ンン……!!」


 ズ、と腰を進めるとの背が反り返る。バルドはきつく奥歯を噛みしめながら、その熱く潤んだ体内へ熱を突き立てた。


(つがいになったばかりに、発情期の衝動に苦しませて。それから――大したエロ猫に育てちまって)


 もう、一年前のあの頃のには戻してやれない。その顔もその声も、全部自分が仕込んだものだ。
 雌として愛されることを知ったが、一年後の今日も共にいてくれる。それがどれほど尊く得がたいものか、自分はよく知っている。


「……ごめんな。責任は取るからな」


 快感に喘ぐにはもう聞こえていないようだった。バルドは愛おしい塊を引き寄せると、悲鳴のような喘ぎ声と涙を吸い取った。











「――ふぅ。今日もよく働いたわ」


 発情の衝動を解消した翌日の夜。が私室で髪を梳いているとバルドがあくびをして入ってきた。
 からブラシを奪い取るとその背後に立ち、髪を持ち上げる。丁寧に毛先を梳かされ、もまたあくびをした。


「お疲れさん。結局大掃除に一日かかっちまったな。……でも、いいもんが見つかった。コツボイノシシの毛のブラシなんて最高級品だぜ? ゲンさんに昔なんかで貰ったのすっかり忘れてた」

「ふーん。私には違いはよく分からないけど」


 一年前までブラシの文化すら知らなかったにとってはどれも同じだ。若い雌らしからぬ冷めた反応を返すにバルドがため息をつく。その髪を丁寧に梳かれながら、はぼんやりと天井を見上げた。


「しっかし大掃除して思ったけど、この宿、結構年季が入ってるわよね。築何年ぐらいなの?」

「さあな。俺も分からん。そもそも俺が始めたわけじゃないからな。少なくとも俺が先代から譲り受けた頃にはもう新しくはなかったな」

「えっ。そうなの?」


 バルド以前に別の主人猫がいたとは知らなかった。が初めて会ったとき、バルドはすでにこの宿の主人だった。ということは、それよりさらに前に代替わりしたということだ。


「元のご主人は? どういう経緯でアンタが宿をやることになったの?」


 が興味津々に振り返ると、バルドは面食らった顔で少し言葉に詰まった。しかしが見つめ続けると、根負けしたように息を吐く。
 の首を戻してブラッシングを再開するとバルドは静かに口を開いた。


「前の親父さんは、失躯で死んだ。……俺がここに来たのは、刹羅で悪魔との契約に失敗して……ライにも愛想つかされて、いよいよ刹羅にいる理由がなくなった頃だ。この腕の呪いを解くのに藍閃で情報を集めたかった。ここなら図書館に近いからな。最初はただの宿泊客だったんだが、ふとしたきっかけでまだ元気だった親父さんの仕事を手伝うことになった」

「へぇ……」


 バルドが語る過去に、もまた静かに相槌を打った。一年前と異なり、その口調に必要以上の重さや暗さは感じられなかったためは無言で続きを促す。


「料理を覚えたのもその頃だ。まだ右手は上手く使えなかったが、初心者でもできる料理を教えてくれてな……。それ自体がちょっとしたリハビリにもなったし、だんだんコツを覚えてきて客にも喜んでもらえるようになって。誇りある刹羅の剣士としては眉唾物かもしれんが、ひとの笑顔が見られて嬉しかった。……久しぶりに、こんな俺でも誰かの役に立ってると思えた」

「…………」


 はゆっくり振り返るとバルドを見上げた。バルドは少し照れくさそうに眉を下げ、から視線をそらす。
 バルドの心がわずかながらでも回復していく過程が見えるようだった。深淵の傷は誰にも触れさせず抱えたままでも、元来世話焼きで他猫と関わるのが好きだったはずの彼が、この場所で多少なりとも癒されそして他の猫に再び関わるまでになったのだ。そしても、そんなバルドに幼い頃励まされたひとりだった。


「親父さんが失躯にかかったのはあんたと最初に会う一年ぐらい前だ。死ぬ間際にな、頼まれたんだよ。宿を引き継いでくれって。……だが最初は断ろうと思った。俺の腕はあんなだったし、客商売なんてやったこともなかったしな。でも周りの猫が惜しむんだよ。この場所をなくしたくないって。親父さんのメシを受け継いでほしいって。しまいにゃゲンさんにまで説得されてな……ちょっとの間のつもりで引き受けたんだ。で、そのまま十数年だ」

「…………」


 はは、と自嘲気味にバルドが笑う。再びの髪に触れようとしたその手を握り、はバルドを見つめた。


「……じゃあ、私は先代さんやゲンさんに感謝しないとね。アンタがここにいてくれなかったら私はアンタと会えなかったし、今こうして落ち着いた暮らしをしてることもなかった。……アンタがここにいてくれて、良かった。村を飛び出して藍閃に来て、まだこの宿があって知ってる顔のアンタに再会して――私もすごくホッとしたの。失躯や虚ろで明日のことも分からないような世の中で、変わらずそこに『在り続ける』ってのはすごいことなのよ。アンタはきっと、私みたいな迷い猫の道しるべになってきたんだわ」

「……っ」


 話したくないこともあるだろう過去を教えてくれたバルドの手を引き寄せ、は素直に言葉を送った。今度はバルドが瞠目する番だった。
 最後に残ったサイドの髪を梳かし、バルドがブラシを置く。の金の髪を持ち上げると、サラサラとそれを指からこぼした。


「……やっぱり最高だな」

「ブラシ? そうね。たしかにツヤが違うわ」

「……違う。あんたがだ」

「んっ……!?」


 椅子に腰掛けたを囲い込むようにバルドが両手をつき、ずいと顔を近付けられた。あっと思う間もなく唇を奪われ、は目を見開く。
 半開きだったそれにバルドの舌が入り込み、いきなりの深い口付けには抵抗もできなかった。


「ん、むっ……! バルド、ちょっ――。ひゃあっ!?」


 膝の裏と背に太い腕が周り、抱き上げられた。バルドは大股で歩くと部屋の隅の寝台にを下ろし、再び迫ってくる。
 この一年の間に大きいものに新調された寝台の上で、はぐぐ…とバルドを押し返した。


「ま、待って! 昨日も、した……!」

「昨日のは繁殖期だったからノーカウントだ。今日も休み、明日も休み、しかも宿には誰もいない。……今日やらないでいつやる?」

「いつもそんなの、関係ないじゃない……!」


 の抵抗にバルドは不満げに鼻を鳴らした。の顔をのぞき込むと、真剣な色をした琥珀色の目がじっと見据えてくる。


「……昨日のじゃ、足りん」

「えっ。噓でしょ!?」

「繁殖期もあんたがエロ可愛くて悪くはないんだが、なんつーかこう、どうしても欲や本能が先行しちまって愛が足りないんだよな。……だから、もう一回しようぜ。今夜はたっぷり、気持ちを込めてな」

「……っ」


 真剣な表情でねっとりと囁かれ、の顔が赤く染まる。その頬にバルドの指が添えられたが、はぐっと顔を引くとバルドを見上げた。


「……気持ち、入ってなかったの……?」

「あ?」

「昨日の……発情期。アンタにとっては、お互いの欲を解消しただけだった……?」


 の疑問にバルドが目を見開く。急に声音が下がったにうろたえたように、バルドは言葉を重ねた。


「いや、もちろんそうじゃない。そんな風に思ってたわけじゃ――」

「――私は。私は……アンタがそばにいてくれて、安心できた。発情期でどうにかになっても、今年はアンタがいるし、大丈夫だって思えた」

「……

「……去年は怖かった。たまたまアンタが近くにいて、波長も合ったから身を委ねたけど、自分の気持ちもまだ全然そこまでじゃなかったし、アンタがどう思ってるか分からなかったし、け…経験もなかったし……。今年みたいに、何があっても大丈夫とはとても思えなかった」


 熱に浮かされてたって昨日のことは覚えている。あんな痴態を晒せるのも、あんな風に激しく求めるのも、全部全部、相手がバルドだからだ。
 そこに気持ちが入っていなかったなんて、冗談でも言ってほしくなかった。

 が睨みつけると、バルドが困ったように頭を掻く。額と額と合わせ、大きな手がの髪を撫でた。


「……すまん。愛が足りない、は間違ってたな。愛はあった。めちゃくちゃあった。ただ……俺があんたを、味わい足りない。発情の衝動がないまっさらな状態で、あんたを抱きたいしあんたを感じたい。……これなら、どうだ?」


 じっと伺いを立てるように至近距離で見つめられる。たっぷり5秒は見つめ合って、パルドの目に焦りが出てきた頃。は小さく笑ってゆっくりとうなずいた。


「……それなら、いい」




「この娘は……。今、俺のこと焦らしただろ。悪い雌だな」

「悪い雄に言われたくないわ。アンタだってたまには焦ればいいのよ」

「くそ……。あーあ、格好悪いな、俺は。セックスを覚えたてのガキでもあるまいし。こういうことに関してはいつでも余裕でいたいんだがな」


 ガシガシと頭を掻いてバルドがため息をつく。がくすくす笑うと、その頬が両手で包まれた。


「……仕切り直し、な。今夜は覚悟しろよ」

「うわーオヤジくさい。無理すると明日に響くわよ」


 の腕が首に回ったのを合図に互いの唇が近付く。が先行して口付けると、バルドは嬉しそうに相好を崩した。



「ン、ちゅ……。……なに笑ってるの」

「笑うだろ、そりゃ。こんなに可愛く相手がおねだりしてくれるなんて……な」

「してないしてない。やめてよその言い方。……んっ」


 浅く深く、互いを味わいなから肌をまさぐり合う。頬にキスされながら尾の根本を愛撫され、は小さく息を乱した。


「そういえば……こないだ、コノエとアサトに指摘されたわ。お揃いだって。……アンタ、いい歳して浮かれてるって言われてたわよ。……ン」

「ああ……まあ、間違っちゃいないな。マーキングしてるからな」

「マッ……!?」

「気付かなかったか? どう見てもそうだろう。悪い虫が寄ってこないように牽制してるんだよ。……ま、あんたを守るって意味もあるんだけどな。ほら、手ぇ上げろ」

「〜〜!」


 揃いの紫の上下が脱がされ、は悔しげにそれを見た。マーキング……自分はバルドのものだと、自らアピールしていただなんて穴があったら入りたい。

 だがたしかに、この服がを守ってくれたのもまた事実だった。が雌だと知っている者も、「わりと腕の立つ宿屋の主人のつがい猫」にわざわざちょっかいは掛けてこなかった。
 煩わしいやり取りはこの服を着るようになってからぐっと減り、助かった側面は否定できない。……手のひらで転がされていたのは悔しいけれど。



「おっ、今日は桜色か。あんたは何でも似合うが、俺はこれが一番好きだな。春めいてていい」

「…………」
 

 下着姿になったを眺め、バルドが嬉しげに言う。先ほどの件で少し拗ねていたが手と尾でそれを隠すと、何を勘違いしたのかバルドは笑みを好色に深めた。


「……もしかして、期待してたか? 脱がされるんじゃないかって」

「バッ……! たまたまよ! 昨日の今日でするなんて思わなかったし……!」

「本当に?」

「ほんとよ……! 気分が上がるから着ただけ!」


 が強く否定するとバルドはにやにやと迫ってくる。
 ……そう、他意はない。期待なんてしてなかった。
 ただ好きだから着ただけで――バルドが以前、好みだと言っていたから――つまり、バルドが好きなものを自分も好きになっていて――


「…ッ!!」

(私、洗脳されてる……!)


 突如として閃いた「理由」に絶句して固まると、その隙に手を引かれてはバルドの腕の中に収まった。


「ほら、油断してると襲われるぞ。こんな風に……な」

「あっ……! ちょ――、んっ!」


 を手中に収め、バルドが指を下着に差し入れる。肩紐を落とされ、中途半端に肌蹴たそこから色付いた先端がのぞき、は羞恥に頬を染めた。見せつけるようにバルドがそこをつまむ。


「一年前はちゃんとした下着も持ってなかったのに、やらしい格好するようになって。最近じゃどれを買っても俺好みだ。狙ってんのか?」

「そんっ……! やっ、耳――」


 片手で胸を揉みしだきながら、もう片方は腹を這い回る。さらには耳の付け根を舌で舐められ、はビクリと身をすくめた。
 後ろでホックを外したバルドがの両胸を手で覆う。大きな手のひらで膨らみをたわませて、湿った微笑がの耳を揺らした。


「なあ、あんた、前より大きくなったよな」

「え……?」

「胸。前はたしか、こんぐらいだった。感度も良くなったし……頑張って育てたかいがあるな」


 手のひらを半円にしてバルドがしみじみつぶやく。は唇を震わせて、自由になる尾でその手を叩いた。


「馬っ鹿じゃないの……。ほんとそういうとこ、オヤジくさい! いちいち言わなくてい――ぁうっ!」

「だってオヤジだもんよ。いちいち反応するあんたも、まだまだウブだな」


 ちゅう、と首筋に吸い付かれて抗議の語尾が跳ねた。首に肩にキスを降らせながらバルドは上半身をまさぐる。指の腹が乳首の先を触れるか触れないかの弱さでかすめ、もどかしい刺激には膝をこすり合わせた。


「あっ、……うっ……、はぁ……ッ」

「体、あったまってきたか? こら、モジモジすんな。触りづらい」

「だって――。んあ……」


 バルドが背後から手を伸ばし、秘所を覆う布に触れた。桜色のそれは指で肌に押し付けられるとぬめった感触を生み、耳元のバルドが熱い吐息をこぼす。


「……湿ってる。まだ触ってもないのにな」

「だから、言わないでって……! バカ!」


 布越しにそこを上下にさすられると、濡れた感触が追随する。その上にある突起を指がかすめ、は首をすくめた。バルドに背中を預け、その感触を必死で追ってしまう。


「あっ……、アッ……」


 ――気持ちいい。けど、もどかしい。薄布越しの刺激は中途半端な快感が腰に溜まるばかりで昇りつめられる気はしない。
 直接触ってほしい。けれどそれを言葉にすることはどうしても恥ずかしく、はバルドの手に己のそれを重ねた。そして羞恥をこらえて肩越しにバルドを振り返る。


「……本当は言ってほしいんだがなあ。でもま、あんたが可愛いから許す。……ほら、これ以上濡れる前に脱ごうな」


 を敷布に倒し、すでに邪魔でしかなかった下履きをバルドが取り去る。バルド自身も服を脱ぐと、に覆いかぶさった。再び深く口付けながら愛撫が再開され、バルドの手が閉じられたの秘所に伸びる。


「ン……。あっ……」

「……はは。今日はすごいな。そんなに興奮してたか?」

「ちが――。ぅ、んあぁ……っ。やだ、もう……」


 まったく引っかかることなく、亀裂の後ろから前までバルドの指が滑った。直接触れられるより先にもうビショビショになっていた。が口を覆うと、バルドはやに下がった顔でゆっくりと膨らんだ芽を撫でる。


「このまますぐ挿れられそうだな。……けど、もう少し気持ち良くなってからな。まずは、こっち――」

「んっ! あっ! んん……ッ! あ、ダメそこ、すぐイっちゃう……からぁッ」

「いいよ、何度でもいっとけ。今日はそのつもり……だ」


 快感をストレートに伝える性感帯への愛撫には身を震わせた。バルドの指はぷくりと膨らんで露出した芽を規則的に優しく擦る。
 強く鋭い快感がやってくる。瞬く間に、は高みへと昇りつめた。


「ん……ッ! あっ、アッ、――ッ!!」



 急速に達せさせられ、は足をピンと震わせた。数秒の自失の後、大きく息を吐いて脱力する。目を開けると、上からじっと見下ろす琥珀色の瞳と視線が交わった。


「…! やっ――」

「……イったな。じゃあ、次はこっち――」


 達する瞬間をまじまじと見られた恥ずかしさにが目を背けると、ず…と指が中に差し込まれた。なんの抵抗もなく中指が最奥まで埋められ、軽く曲げられると思わずそれを締めてしまう。余韻も冷め切らぬうちに快感を上書きされる予感には小さく首を振った。


「ま……待って。まだ早い……」

「ああ。ゆっくりやろうな。……ここもだいぶ、柔らかくなったな。最初のときは指二本も入らなかったのに、今は引き込まれるみたいだ……、っと」

「ん……はぁっ……」


 一度指を抜かれると、今度は二本になって帰ってきた。長い指の圧迫感にが眉をひそめると、それを馴染ませるように浅く抜き差しされる。
 先ほど達したばかりの体はすぐに快感を拾い上げ、はこらえきれぬ吐息をこぼした。


「う……、あっ、ああっ……。やだ、ダメ、そこ……指…ッ! あっ、ああ……っ、ん…!」

「うん? どこだ……?」

「〜〜っ、くぅ……、ん……!」


 あくまでもゆっくりと、バルドの指がの内壁を擦っていく。決して激しい動きではないのに、深い部分からぞくぞくするような疼きが湧いてきては身悶えた。

 バルドの指は、右のひと差し指と中指の二本だけ爪の先が丸い。
 リビカは普通、木や爪研ぎ板で自身の爪を整える。その猫の好みや生活環境にもよるが、バルドの宿にも爪研ぎ板が置いてありもバルドもそれで爪を整えていた。
 だがこの一年の間に、気が付いたのだ。バルドはさらに、そこからヤスリがけをしてあえて爪を丸くしていることに。

 最初はなぜそんなことをするのか分からなかった。街で暮らしているとそう使うことはないとはいえ、最も身近で便利な武器であるそれを一部とはいえなぜ削ってしまうのかと。
 しかしある夜、は気付いた。の中に指を入れるとき――バルドはその二本しか使わないということに。

 野生に逆らい、その爪を削るのはただの体を傷付けないためだけに。その理由を悟ったとき、は絶句し、赤くなり、そして悶えた。
 その指が今、の中を自在に滑っている。チュ…と粘着質な音をさせて前方を強めに押され、はたまらずバルドの肩を掴んだ。


「あっ! ……ぅああッ…! あっ、いや、それ……っ。バルド…ッ!」

「嫌じゃないだろ。……気持ちいいか。トロトロの顔して……。ここ、ざらってしてるとこ、あんた一番好きだよな。それから――こっちもか?」

「ひっ――、あ、ア…!」


 ず、と指を滑らせて指先が最奥に触れた。入り口の圧迫感に加えて内臓を直接押されるような怖気が加わりゾッと尾が逆立つが、そこを指先で撫でられると腹の底から震えが走る。
 息を弾ませたバルドに前方を執拗に責められ、はもう羞恥も忘れて高い声を上げた。芽を責められる鋭い快感とはまた違う、重く込み上げるような波がやって来る。


「あ……! アア……ッ!! ――ッ!!」



 二度目の絶頂は深く長く続いた。バルドにきつくしがみつき、その波をどうにかやり過ごすとは大きな吐息とともに敷布に沈んだ。
 うっすら目を開けると、やはりバルドの双眸が自分を見下ろしている。糸が伝う二本の指をゆっくりと舐めとる雄猫の姿に、はたまらず両手で顔を覆った。


「やだぁ……! なんで見るの……。恥ずかしい…っ」

「んー。……あんたを目に焼き付けたいから、かな。あんたの可愛い顔を、死ぬまで覚えていたい」

「えっ」


 思いがけず真剣なその口調に、ははっと手をずらした。バルドは眉を歪め、じっと耐えるような表情をしている。


「ど、どこか悪いの?」

「……そうだな。痛い」

「どこっ!? あ、腕……?」


 乱れた息も整わぬままが身を起こすと、バルドがその手を取った。苦しげな顔で、導かれた先は――


「ここが。はち切れそうで、そろそろマズい。どうにかしてくれ」

「!!」


 握らされた脈打つそこの太さと硬さに、は絶句して尾を逆立てた。



「バ、バ、バッカじゃないの……!? 心配して損した! 信じられない! 信じられない…!」

「いや本当にキツいんだって。中だけでもイけるようになったあんたが可愛くてなあ。とんでもないエロ猫に育てちまったなあとか、色々こみ上げてきて――」

「エロ猫はアンタでしよ!? 私まで巻き込まないでよ!」


 涙目で睨むとバルドは双眸を細めた。欲情して苦しげではあるが、そこにはまだ余裕があった。
 あふれるほどに潤った亀裂を撫でられ、膝を開かれる。は唇を噛み、悔しげにその顔を見上げた。知らず、うなり声が漏れる。


?」

「……ずるい」


 を味わうと言っておきながら、結局のほうがバルドを味わわされている。感じさせられてる。
 はもう十分バルドの舌と指を堪能したが、バルド自身はの愛撫を少し受けただけだ。それが悔しくて、は身を起こした。バルドの肩を掴んで動きを制すると、その太い腰に乗り上げる。


「おお? ……珍しいな」

「ずるい……! アンタばっかり私のこと見て! 私にだって、触らせなさいよ!」

「おい……。――ッ」


 膝をついて腰を浮かせると、はバルドの熱を自身の中心に宛がった。濡れていても、入り口が裂けないように慎重に腰を下ろしていく。
 指とはまったく異なる圧倒的な質量が自身の動きによって埋め込まれ、根元に迫るにつれて増す圧迫感には眉をひそめた。


「……きつくないか」

「きついわよ……っ。なんでこんな、大きくしてんのよバカッ……!」

「いや、そこ責められてもなあ。……ん、奥まで、入ったな……。ぎゅうぎゅうだ……」


 臀部がバルドの腰に触れると、バルドと向かい合ったままは息をついた。の腰を抱いたバルドが乱れた金髪をかき上げる。
 至近距離で見つめ合ったのを合図に、はバルドに口付けを仕掛けた。唯一、バルドが上手いと称賛したキスを。


「……なんだよ。今夜はずいぶん積極的…じゃないか」

「うるさい…っ。少し黙ってよ……。ン、……はぁっ……、ん……」


 舌を絡ませながら、バルドの首筋に手をやり後ろから小さな耳を撫でた。
 大型種で、しかもトラ縞で、どこもかしこも雄々しいくせにそこだけは可愛らしくてしかも意外と敏感なことをは知っている。震える両耳を手で塞ぐとキスの水音がこもるのか、バルドが余裕なさげに目を細めた。


「……こら。エロいことするな。耳触んなよ、弱いんだから」

「自分はさんざん触っておいてよく言うわ。……はっ……、ねえ……。もう一回……」


 バルドを身の内に咥え込みながら、は再度キスをねだった。バルドが応え、室内に水音と吐息だけが響く。
 はふと違和感を覚えて耳をそばだてた。いつもは聞こえる雑音が――ない。


(静かだわ……)


 主とそのつがい以外が去った宿屋は、しんと静寂に包まれている。もう深夜だから街の喧騒も聞こえない。
 いつもなら夜でもどこかの部屋からかすかに聞こえる物音も何もない。つい天井を見上げると、同じことを思ったのかバルドもキスを中断して上を向いた。


「宿がつぶれたらこんな感じなんだろうな……」

「縁起でもないこと言わないでよ。でも、静かね……。猫の声がしないのに違和感を感じるなんて、我ながら変わったものだわ」

「あんたがここの猫になったってことだろ。……でも、たまにはいいだろ。誰もいなけりゃ、声が漏れる心配もない……っと」

「――ッ、あ……!」


 挿入したままじっと待っていたバルドが、促すようにを軽く突き上げた。淫靡な空気に引き戻され、はバルドの頭をかき抱く。


「去年の修繕のとき、この部屋の壁分厚くしといたから心配しなくてもいいんだがなあ。恥ずかしがりの誰かさんは、いつも声抑えるから」

「ま、待って……! 私が、動くから……っ」

「駄目だ。言っただろ、キツいんだよ。もう待ってる余裕はない」

「あ……! だって、あン……ッ!」


 まだバルドに触り足りないのに、下から突き上げられては抗議の声を上げた。だがバルドはの腰を抱え込み、本格的に揺さぶりにかかってしまう。


「掴まってろ……っ。……はぁっ、あんた、相変わらず軽いな。しっかり食わせてんのに、やらしいトコばっか肉がついちまって」

「そんっ……なの、知らな――。ああ、アアッ、んう……ッ」


 の胸に、二の腕にバルドが甘噛みを仕掛ける。
 経験豊富な雄猫に本格的に責められはじめると、にできることはもう少なくなる。振り落とされないようにバルドの首にすがりつき、ただ喘ぎ、中を締め、溺れるだけだ。
 ならばせめて――自由になる口ぐらいは。

 は伏せられた小さな耳に唇を寄せると、その縁を舐め、吐息を吹き込んだ。


「すき……」

「……ッ!」


 途端、バルドがびくっと震えた。その反応に驚いてもう一度薄い皮膚を甘噛みすると、バルドは動きを止めて耳を押さえた。そしてを見上げる。
 その表情にの目は釘付けになった。


(……え)


 目を見開いて、頬を染めて。その顔は若いとは言えない年齢のものなのに、どこかあどけなくすらあった。不意打ちを食らったような表情の雄に向けてはぼんやりとつぶやく。


「可愛い……」

「…! ……やめろ」


 一瞬の戸惑いのあとにバルドはいつもの表情へと戻ってしまう。それがもったいなくて、はバルドの唇を塞ぐと腰を上げた。
 雄が抜けるギリギリまで腰を浮かせ、そして落とす。与えられる長い抽挿の繰り返しにバルドの喉が大きく動いた。


「うっ……、こら、掴まってろって――」

「ね……気持ちいい?」

「当たり前のこと、聞くな……っ。見るなよ、オヤジの感じてる顔なんて見たって楽しくないだろ」


 ――そんなことない、とは思った。文句を言いながらもの好きにさせてくれるバルドの顔は、を責めているときとはまた違い、余裕がなかった。

 が腰を振るのに合わせて眉が歪む。ときおり目を閉じ、食いしばった口から押し殺した吐息が漏れてぞくぞくと腰が震えた。バルドも、を感じてくれている。
 喉からたどって指先であごひげを撫でるとバルドはうっすらと目を開いた。その余裕のない瞳には思わずほくそ笑む。


「……シェリル」

「! ……それはマジでやめろ。萎える」

「だって可愛い――あんっ!?」


 仏頂面になったバルドが、突然の膨らんだ芽をキュッとつまんだ。いきなり与えられた強い刺激にが身をすくめると、熱を埋めたまま荒っぽく敷布に押し倒された。
 乳房がバルドの厚い胸板に押しつぶされる。濡れた芽を強く擦りながら、バルドは獰猛にを揺さぶった。


「あっ、あっ! ……ああ! んあ、やぁ……っ!」

「やっぱこっちだよな。悪い雌には、お仕置きしないとな。……ああ、、可愛いのはあんただ……。……ッ」

「あ……。バルド、……んん、ああっ、バルド…! あ、んう…ッ、やっ、イく……っ!」

「ぐっ……、ああ。俺も……ッ、――うっ……!」

「んぅ……!!」



 バルドの背にしがみついて、は三度目の絶頂を迎えた。時を同じくしてバルドが震え、最奥がじわりと熱くなる。
 そのままふたり、震えながら互いにしがみつき、吐息がようやく整ってきた頃バルドが身を引いた。
 雄が抜けた亀裂から白濁が伝う。拭うものを探してが身を起こそうとすると、バルドがそこを見下ろして指で拭った。


「な、に……? 拭かないと――」

「出してえな……。発情期にも」

「え……?」


 何を言ったのかには聞き取れなかった。バルドはふっと苦笑すると、のそこを布で拭う。


「……ま、けじめをつけてからな。来年も、その先も――。もうそろそろな」

「?」



 後始末を済ませて敷布に転がると、途端に睡魔が襲ってきた。三回も達したらそれはそうなる…などとが呆れていると、バルドの腕に抱き込まれた。
 優しく毛づくろいしながら、髪を撫でてくれる。体を包み込むぬくもりとその心地よさに喉を鳴らすと、バルドは静かに笑った。


「あんまり俺を、甘やかすなよ。あんたが可愛いとどんどんダメになる気がする。こんな若い娘に溺れて、年甲斐もなく張り切っちまうぐらいにな」

「じゃあ、私が甘やかせばいいんじゃない? ねーシェリル。さっき可愛かったわよ」

「だからやめろ。……駄目だ。甘やかすのは、俺の特権だ。……さ、もう寝よう。明日もう一度、髪梳かして結ってやる」


 バルドが掛布を引き上げる。揺らぐことのないぬくもりに包まれて、は穏やかな眠りに落ちていった。













「トキノー!」

「あれ? 、宿お休みじゃなかったっけ? 今日の髪型可愛いね。何かいいことあった?」

「ふふっ。特に何もないわ。ちょっと遠出するから、干し肉ちょうだい。それと乾燥果実と――」


 翌日、バルドとの遠出を控えてトキノの店に立ち寄ったは保存のきく食品と、休み明けに使う食材を注文した。


 あの闘いを経て、生きる場所が変わった。生き方も、隣にいる猫も変わった。
 こんな大きな街で、客のことを考えて大量の食材を注文する自分など誰が想像できただろうか。幼い頃にあれほど恐れた「雌」の姿で、それを捨てることなく誰かと寄り添う未来など、一年前には想像もつかなかった。

 あたたかな眼差しと腕に守られ、ここにいていいのだと、自由に生きていっていいのだと思えるようになった。
 そして願わくば、この先もずっと彼を支えていきたいと思う。優しさと誇りを取り戻したあのつがいと。

 顔を上げたに、顔見知りの商売猫が気安い様子で話しかけた。


「――おっ。バルドんとこの女将じゃねえか。買い出しか? 早く飯だけでも開けてくれよ。あんたんとこ、美味いんだから」

「女将じゃないですー。五日月後に開けるわ。ご馳走用意して待ってるから、どうぞご贔屓に!」


 






 END



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ラメステで再燃して、まさかの16年ぶりの新作その2です。
とにかくステバルドが良かったので、ねっとりと思いのたけを込めました。
バルドの過去を捏造してますが、公式で既出でしたらすみません。

再燃に伴う更新は以上となります。久々に楽しかった!

(2024.4.1)