「フ……えくしゅッ!」


 明け方、 は妙な悪寒を感じて目を覚ました。
 ここは藍閃の宿。 はつがいである白い猫と、数日前から勝手知ったるこの宿に滞在していた。

 寒くはなってきたが、別に体調を崩している訳であもない。ただ、なんとなく隣がスースーするのだ。
 昨夜はライと、まぁ……そういうコトになって、そのまま二匹で眠ってしまったはずなのだが。

 ライは出掛けてしまったのだろうか。再び夢心地で寝返りを打った は、そこにいたものの姿に目を見開き、ついでに口も開き、声にならない悲鳴を上げた。

「……!!???」


  の真横には、白銀の髪をした全裸の少年が眠っていた。






白猫の受難 リターンズ







(な、な、なななななな……誰!? こ、子供…!?)


 少年を起こさないよう細心の注意を払い、それでもこらえ切れずに無言で飛び起きた は、パクパクと眼下の少年を見下ろした。
 少年といっても、よく見ればおそらく出会った頃のコノエとそう変わらないような年恰好だ。髪が短く今は目も閉じている分、余計に幼く見えるだけで。

(いやいやいや、それでも十分若いって! ――ハッ! まさか私、この子と×××……!? 全ッ然記憶にないんだけど……!!)

 驚愕で、 の思考はあっという間にショート寸前になった。ヒッヒッフーとどこかで聞いたような呼吸法を繰り返し、どうにか落ち着こうと努力する。

(待って。落ち着くのよ 。ハイ吸ってー、吐いてー……)

 どう見ても落ち着けていない。それでもラ○ーズ法が功を奏したのか、徐々に の思考もクリアになってきた。
 ――そういえば、前にもこんな事があった。怪しい木の実を食して赤ん坊になってしまった銀髪の雄猫が、どこかにいたはずだ。


「……ライ……」


 ガックリと が肩を落としたのを合図に、少年の白い睫毛がふるりと震えた。





「…………」

「あ……」

 少年――ライが、目を覚ました。ぼんやりと天井を彷徨っていた視線が、気配に気付いたように へと移る。息詰まるような緊張感を感じながらも、 は現れた薄青の双眸に胸を打たれた。

(まだ……両目ともある――)

 しみじみした とは対照的にライは怯んだように顔を強張らせ、次いでカッと頬を染めた。その視線を追って―― もまた赤面することになった。
 少年ライと同様、 も何も着てはいなかったのだ。

「……あ! うわ、あの、ゴメン……ッ! 驚かせちゃって――」

「あ……」

 慌てて毛布を引き寄せ、身体を隠す。ライはやはり頬を染めたまま を凝視して、声を詰まらせていた。……状況が把握できない、という顔だ。
 それはそうだ。そう思いながらも はライの反応の初々しさに(というか普段のライとのあまりのギャップに)、むしろ自分が動揺していた。

(ヤバイ。ちょっと可愛いかもしれない……!)

 そんな の心中など知らぬライは不安げに客室内を見渡し、再び に視線を向けるとボソリと告げた。


「あんた、誰だ。……娼婦?」

  の知るライよりも幾分か高い声で発せられた言葉に、 はピシリと固まると地を這う声で答えた。

「……違います」


 別に娼婦が嫌な職業だとか言うつもりはない。この世界にだって必要だし、身体を張っている雌たちはある意味賞賛に値すると思う。……けれど、決して間違えられて嬉しいものでもなかった。特にこの猫には。
 状況的に仕方ないと思いつつも、目が据わるのは仕方ない。するとライが焦ったように、わずかに視線を彷徨わせて反論した。


「だって、そうとしか考えられないだろ。娼婦じゃないのになんで俺と寝床になんかいるんだ。あんた、何者だ」

「だから違うって。……君、そういう所に行ったことあるの? だからそう思うの?」

「…………。ない、けど……」

 少しだけ意地悪な質問をすると、ライは視線を逸らしてボソリと答えた。
 面白くなさそうだ。ちょうどこの手の話題に関して、矜持が芽生えてくる頃なのだろうか。 はそんな事をぼんやりと思い、自分の汚れてしまった思考に少し寂しいものを感じた。

(誰のせいだと思ってるのよ……)

 溜息をつくと、 はまだ混乱の淵にいる少年をなだめるべく、静かに現状を説明し始めた。







「――あんたが未来の俺の、賛牙……?」

「そ。私は 。未来の君のつがい。……残念ながら未来のライは、しっかりしてるようで変なモノをまた食べちゃったみたいだけどね……」

 
 お互いに背中を向けてコソコソと着替えをし(ライの服はこれまた若干小さくなっていた)、気まずいながらも は懇々と事態を説明した。そして小半時が過ぎた今、ようやくライは現状を把握してきてくれたようだ。頭の中で の話を反芻し、考え込んだライに は静かな視線を注いだ。

(若いなー。こないだも若すぎて可愛かったけど、これはこれで確かに未来が納得の可愛いカッコ良さだわ……。まだあんまりスレてないし……)

 顔かたちは確かに今のライに近付いてきているが、その言動には厳しく育てられたという子供時代のライと、刹羅を飛び出してから荒波に揉まれてきた成猫になりかけのライが、微妙な配合で混在している。今のライとはまた違う少年の姿に、 は悪いと思いつつも少々楽しい気分になってきた。


「……何をニヤニヤしてるんだ、あんた」

「え!? そ、そんな事ないわよ……?」

 妙な視線を向けられているのに気付いたライが、ジトリと を振り返る。ハッと顔を引き締めた は、しかしやはりへらりと相好を崩してしまった。

「だから何がそんなに……っ」

「あ、ゴメン。君にとっては深刻な事態なのにね。ただ……その……未来の君と似てるようで少し違っていて、ギャップが面白いというか……」

「面白い……?」

「ああ本当にゴメン。これも失言だわ。……うん、なんかね、ライに『あんた』って呼ばれるのって新鮮だなーって」

「…………」

 段々と不機嫌になっていく少年をこれ以上刺激するのも悪い。 が頭を掻きながら笑みを柔らかいものに変えると、ライは一瞬固まった後に から目を逸らして問い掛けた。


「なら……未来の俺は、あんたの事なんて呼んでるんだ。名前……その、『 』とか……」

「いや殆ど。だいたいはお前とか、阿呆猫とか、ヒドい時だと『おい』とか……」

「…………。俺、ひどくないか……?」

「……あはは……」

 ライの冷静なツッコミに、 は乾いた笑いで返した。もう慣れてしまったし別に不満もありはしないのだが、ライは をじっと見つめるとまたしても聞きづらそうに問い掛けた。

「じゃあどんな時なら、呼ぶんだ」

「え? あ、あー……」

 随分とこの話題に喰い付いてくる。ライが の名を呼ぶとき……それを考えて は口篭もった。ライが名を呼ぶのは、闘うときにたまにと……残りは情事のときだ。あの時は比較的サラリと名を呼んでくれるが、大抵その前後に強い快楽を与えられるため、名前を呼ばれるイコール恥ずかしい気持ちになる、という図式が の頭の中では出来上がってしまっていた。

「た、闘うとき、とか……」

「……?」

 急に頬を赤らめた にライの訝しげな視線が刺さる。ライはしばらく の横顔を見つめていたが、やがてフイと視線を外すと呟いた。


「やっぱり……信じられない。俺がつがいと……ずっと一緒に行動してるなんて」

「……そう? 今はまだ賛牙が欲しいとは思ってないのかな」

「ゆくゆくは欲しいけど……そうじゃなくて、あんな――いや。あんた雌なのに」

 『あんな――』が先ほど見られた裸に掛かるのだろうと、 はまた少し赤くなったライの顔を見て察した。それは置いておいて、 は握りこぶしを作るとライに笑ってみせた。

「あら。私、歌だけじゃなくて結構腕っ節も強いのよ? 未来の君に鍛えられたからね。……ライも、私と初めて会った頃にはつがいになるなんてきっと思ってなかったわよ。でもまあ色々あって、一緒にいるようになったの。私もライと生きていたいし」

「……ふーん」

  が迷いなく語った言葉に、ライは興味の薄そうな相槌を返した。


「……ま、前回を見る限りそのうち戻るみたいだし。君は君で未来を満喫すればいいんじゃない? あまり危険でない程度にね」

  のこの提案を発端に、数日間の奇妙な共同生活が幕を開けたのであった。






  +++++   +++++






「――あ、ライ! どこ行くんだよ」

と空き地でトレーニング。あんた、忙しいんだから俺のことなんか構うなよ。ここの主はどこに行ってるんだ?」

「ちょっとライ! そんなに引っ張らなくてもちゃんと行くってば!」


 ライが少年になってから三日目の朝、 はライに引っ張られて朝食もそこそこに食堂を飛び出した。

 この年頃のライをバルドと会わせるのは少々厄介かもしれないという事で、申し訳ないがバルドには居留守を使ってもらっている。必然的にライが宿にいる間は従業員であるコノエが人一倍働く羽目になるため、コノエの仕事量が目に見えて増えてしまい、 は慌てた。
 自分としてはのんびり待ってみてもいいような気持ちでいたが、早く元に戻ってもらわないとコノエが倒れてしまう。


 一向に戻る気配のないライを連れて、 は昨日呪術師のところへ行ってみた。すると「心配するな。時間と、あとはこの若い白猫が満足感を得られれば自然と戻るじゃろう」とのコメントが返ってきた。

 つまり、前回も時間だけでなく赤ん坊ライが満足をしたから、元に戻ったということか。満足を得るような行為などしただろうかと思い出して、 はふと赤くなった。……毛繕いか。

 だがこの多感な年頃のライに、それをするのはちょっとはばかられる。結局 はライが満足を得られそうでなおかつ宿から離れられる行為、ということでとりあえず身体を動かしてもらう事にし、相手を買って出たのだった。

 
「ごめん、コノエ。後で手伝うから仕事残しておいて!」 

「ああ。若いって言っても強いんだから、アンタも気をつけて――って、もういないか」


 コノエの言葉を最後まで聞かず、街外れの空き地まで一直線に引っ張られていく。結局その日も は、陽の月が沈むまでライの鍛錬に付き合う羽目になったのだった。




「ちょ……もう、無理……ッ。体力が……」

「もうヘバったのか。鍛えられたって言っても、案外体力ないんだな」

「一日中やってれば誰だってそうよ……。あー、君の若さが羨ましくも憎い……」



 そんな会話を交わし、その日も宿に帰り着いた。満室という事でライとは相変わらず同室ではあったが、 はもう既にライをつがいというよりは可愛い弟くらいの気持ちで思っていたため、特に意識もせず眠りについてしまった。
 そしてその翌日。 は絶体絶命のピンチを迎えたのだった。







  +++++   +++++







「んー! ……おはよう、ライ」

「……っ……、……」

 晴れた朝、目覚めた はすぐに隣の寝台に声をかけた。だがいつもならすぐに返ってくる憎まれ口が、今日はない。代わりに苦しげな吐息が聞こえてきて はライを覗き込んだ。


「どうかした? 調子が――」

「……何でも……ないっ……。少し熱が出ただけだ……」

「少しって顔じゃないでしょ。どれどれ――」

 赤い顔で荒い息をついている白猫の耳を摘まむ。熱を測ろうとした の指に、そのときピリッとした衝撃が伝わった。

「……ッ!」

「――! ……あ……、そっか、そんな季節なんだ……。ゴメン」

 この衝撃は、もう何度も覚えのあるものだ。今回はライの方が早かったらしい。すると手を引っ込めた の言葉に、ライが怪訝な視線を向けた。


「なんだ、この感じ……」

「え? だから発情期――」

「……発情期? ……これが……?」

「え……」

 呆然と呟いたライに、 もまた唖然とした。この反応――まさか。

「あの、もしかして……これが初めて……?」

「…………」

 きまり悪げに頷いた若いライの姿に、 は眩暈がしそうになった。


(……待って。待って待って待って……! ど、どうしよう……!)

  が触れたのが契機になったのか、ライはますます苦しそうな表情になってしまった。 は内心激しくうろたえながら、平静な口調を装って問い掛けてみた。


「発情期自体は知ってたのよね? だったら……その、ひとりで解消する方法も知ってる……? あ、私邪魔だったら出て行くし……」

 猫同士で交わる以外にも、対処方法として一匹で衝動を解消する手段もある。さすがに今のライに交わりを提案するわけにもいかず がさり気なく勧めてみると、ライは訝しげに首を傾げた。

「ひとりで……? 二匹のなら知ってるけど……どうするんだ」

「……っ、あー……。知らない、よね。やっぱり……」

 ライの状況はいよいよ切羽詰ってきている。 は頭を抱えたくなった。

(なんでライに限ってこんなにピュアなの!? てゆーかバルド! 最低限の知識ぐらいちゃんと教えときなさいよ!!)

 ここにいないバルドに当たっても仕方がない。 は一つ息をつくと覚悟を決めて、ライの寝台に上がりこんだ。二匹分の重みを受けてギシリと寝台が鳴る。ライが困惑したように を見上げた。


「……? あんた……」

「……あの、ね……。発情期って、まあ相手がいるに越したことはないんだけど……一応ひとりでも解消できるのよ。今回は……私がするから、じっとしてて」

「何を――、……ッ! おいっ……!」


 掛け布を剥ぎ、ライの下肢に手を掛ける。呆然としてたライが焦った声を出して起き上がろうとするが、それをやんわりと押さえつけて は布越しにライの中心に触れた。
 ライがビクリと震えるが、強い抵抗はしない。苦しくてもう力が入らないのだろう。
 早く楽にしてやりたい。 は焦らすのをやめて下衣を少しだけずり下げると、ライの熱を引き出した。


「……! あんた……」

「……いいから」

 露わになった熱にライがハッと息を呑む。顔は見られたくないだろう。 がその部分に目をやっていると、視線を感じたのか半勃ちのそれがふるりと震えた。

(あ……ちょっとだけ小さ――、いやいやいや。何考えてんの!)

 ふいに不埒な思考に身を掬われそうになった は、心の中で頭を振ると目の前の熱をじっと見つめた。優しく、その若い幹を握る。

「……っ」

「すぐ、済むからね……」

 呟いて、芯を持ち始めているそれをさする。瞬く間にライの熱は固くなり始め、先端から透明な汁が滲み始めた。


「……ッ、……くっ……」

 粘液を帯びて、 の手が滑りやすくなる。グチャグチャと鳴り始めた手元の行為に が集中していると、頭上から快楽をこらえるようなライの吐息が零れ落ちた。

「ライ。大丈……、――ッ」

「見るな……ッ」

 ふと顔を上げた はハッと手を止めた。見上げたライが耳を下げ、眉を寄せ、わずかに頬を染めて自分を見ていたからだ。扇情的なその顔にゾクリと腰が震える。
 ライのそういう顔を見たことがない訳ではないが――いつも自分の方がより余裕がなくて、こんなにはっきりと覚醒した状況で見られたためしがない。それに成猫のライとはまた違う、幼さゆえの艶っぽさに は鼓動が跳ね上がったのを感じた。

(うわ……。ちょっと、私ヤバ――)

 ごくりと唾を飲み、気を落ち着かせるように視線を手元に戻す。既にすっかり勃ち上がったそれを大きなストロークで扱き、その下の袋を優しく撫でさするとライの呼吸がせわしなくなった。……限界が近い。
 解放を促すように先端をくびり撫でると、ライの身体が強張った。


「……ぅあ……ッ……!」



 どろりと、手の中に精が放たれる。ライが放出し終えるのを待って、 は静かに身を引いた。知らず上がっていた呼吸を整え、手近な布で手を拭う。

「楽に、なった……? ――とまぁ、これからはこういう風にひとりで――」

 いまだ荒い息をしているライを窺い見た は、次の瞬間手首をぐいと引き寄せられた。


「……ん! 〜〜んんッ……! ――ちょ……やめ、ア……ッ!」

 荒っぽく頭を掴まれて――唇が奪われた。目を丸くした が抵抗する間もなく、ひらりとあっという間に身体を返されて押し倒される。 は圧し掛かってくるライの肩を押し止め、慌てて叫んだ。

「ちょ、ちょっと待って! ライ! どうしたのよ!?」

「……あんたの分が、まだ済んでいない」

「は? ……わ、私はまだ発情期じゃないわよ……!」

「でも、したそうな目をしていた」

「……ッ!」

  が言葉に詰まる。その顔を見て、ライはひどく落ち着いた声で に問い掛けた。

 
「――あんたと俺、いつもこんな事してるのか」

「え……?」

  は思い掛けない言葉に目を見開いた。ライが気まずげに視線を逸らし、黙り込む。

「い……いつもしてるってワケでも……」

「どうだか。最初のとき裸だったって事は、つまりそういう事なんだろ。――なぁ、未来の俺って上手い? あんたの事、どんな風に抱くんだ?」

「……ちょっと、ライッ……! ……ん――!」

 急に機嫌が悪くなってしまったライに抗議の声を上げた は、今度は尾を掴まれて声を封じられた。急所への仕打ちにゾッと鳥肌が立つ。ついでに身体をライの手が這い始め、 はくすぐったさに身をよじった。


「あっ! ま、待ってよ……。なんで怒ってるのよ! 未来の君のことでしょうが!」

「知るかよ。……ムカつく。こんな事してても、あんたは未来の俺の事しか考えてないんだろ。だから平気な顔して同じ部屋で寝れるし、あんな事……できるんだ」

「…………」

 ブスッと呟かれた声に は目を瞬いた。つまり、それは――


「えっと……自分自身に嫉妬してるってこと……?」

「……っ」

 ライの頬がカッと染まる。 は己の失言に気付くと同時に、どうしようもなくこの幼いライが愛しく見えてきてホッと身体の力を抜いた。


「もう……。あと何年かすれば、会えるのに……」

「うるさい。俺は今がいい。――いいんだな? 

 ふいに艶めいた声で名を呼ばれて、 は固まった。熱の篭った眼差しで見下ろされ、狼狽する。

「……っ。――名前は、卑怯よっ……」

「どうして。いい名前なのに。……本当は呼んで欲しいんじゃないのか?  ……」

「〜〜!」


(ラ〜イ〜〜! 若いアンタも意地が悪いけど、それ以上に恥ずかしいわよ!!)


 名前を呼ばれるのには相変わらず弱い。思わず赤くなってしまった を見て、ライが嬉しげに動き始めた。圧し掛かってくる重みを受け止め、 は切れ切れに問い掛けた。


「……あの、さ…っ、つかぬ事を聞くけど……、んッ……誰かと、こういうコトした経験って…、あ……っ」

「ない。あんたが初めてだ」

「そ、そうだよね……」


(うわー、うわー……。ってコトは私が筆下ろ――いやいやいや。まあ、ラッキーだったって事で……)


 不埒な思考を打ち切り、とりあえず美味しく頂いてしまおうかと は思った。しかし――


「……すごいな。いい声……」

「え? あ、バカ……ッ、あ――、……っ――」


 次第にライ生来の手際と相性の良さに翻弄され、いつしか余裕を失っていったのだった。







  +++++   +++++







(……美味しく頂かれてしまった……)

 数時間後、色々なものが尽き果てた はライの重みを受けてぐったりと横たわっていた。
 眠ってしまったライの薄い背中を撫で、複雑な笑みを浮かべる。……絶対に未来のライには黙っていよう、そう思ったそのとき。ボムと音がして の上の身体が突然質量を増した。


「……う……っ……、重……ッ!」

 思わず呻き声を上げてしまった の声で、ライが身じろいだ。がばりと身体を起こしたライに見下ろされ、 は今度こそ目を見開いた。


「あ――。……ライ……」

「…………お前……」


 ライが元に戻っていた。瞳は隻眼になり、髪も伸び、逞しい腕がその身体を支えている。
  はしばらく呆然とした後、身体の力が抜けるような安堵を感じて溜息を漏らした。

 戻ったいう事は、若ライが満足したという事か。一体何で満足したかは深く考えないようにして、 は思わず口を開いていた。
 
「良かったぁ……」

「……どこがだ」

「え?」

 低い声に顔を上げると、むっすりとした顔のライが自分を見ている。ライはふいに口端を引き上げると、 を覗き込んだ。


「随分とサービスが良かったようだな? 

「え――、……! アンタ、覚えて……っ」

「さぁ、なんのことだ? ……説明してもらおうか、

「〜〜! ……ちょっと、なに連呼してんのよ!」

「照れることもないだろう。お前が望んでいた事じゃないのか? 。それとも『俺』に呼ばれるのは嫌だとでも?」

「……あの、えっと……ラ、ライ……?」


 意地の悪い笑みが に迫る。逃れようとしてもここは寝台の上で、お互い全裸で、なおかつ の身体はライに完璧に押さえ込まれている。 は己の身を不運を悟った。


「過去の俺だけが相手じゃ、不公平だろう。――頂かせてもらおうか」


 





 白猫の受難は過ぎ去り、雌猫の受難が今このときから始まった。











 END



(2008.1.2)


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