ぼくの日記





 それは、とある夫婦のある夜の出来事。


。これは何だ……?」

「んー? ああ、カナタの日記じゃない。文字を覚えるんだって言って、時々書いてるみたいよ。
 中見たことはないけど」

「そうか。(ぱら)」

「あっ! ちょっと、見ちゃダメじゃない」

「見てはいけないとは書いていない。少しだけだ」

「もう……」




三めぐりの月 いざよいの日


カガリお姉さんのこと

カガリお姉さんは、ぼくのお父さんのお姉さんです。

お父さんが「カガリはおれの母さんがわりだった」と言っていたから、カガリおばあちゃんとよんだら、お姉さんはとってもおこりました。

それをお父さんに言ったら、「姉さんでもある」と言われたので、ぼくはカガリおばさんとよんでみました。
お姉さんはやっぱりおこって、プリプリしてどこかに行ってしまいました。

お姉さんとよんだら、ようやくわらってくれて、ぼくはホッとしました。
とてもこわかったから、もうおばさんとよぶのはやめておこうと思います。




「カ…カナタ……。なんてコト言ったのよー!」

「カガリは怒ったら怖いからな……。俺も前に歳を聞いたら怒られた」

「こないだ機嫌悪いと思ってたらこれか……。もう一度ちゃんと言い聞かせとこう」

「それがいい。次は……(ぱらり)」




四めぐりの月 しん月の日


今日お母さんとかじばにいたら、知らないねこが入ってきて「こどもをよこせ」とどなりました。
ぼくがこわくてお母さんのうしろにかくれたら、お母さんは「だいじょうぶよ」と言ってまわりのおとなたちにうなずいてから、うちかけのやけた剣をほうりなげました。

あつい剣の当たったねこは大さわぎして、すぐに村からとび出して行きました。
お母さんは「でなおしてきな!」とおこり、まわりのおとなたちはお母さんのことを「すごい」と言っていました。

ぼくのお母さんは、とてもきれいでつよいねこです。
でも、おこるとちょっとこわいです。




「こんなことがあったのか? 、危ない時はすぐ俺を呼んでくれ」

「だって作業場の中だったし……。それに弱かったのよ、そいつ。そういやあれから一度も見ないわね」

「最近、よくのことを褒められると思ってた……」




五めぐりの月 まん月の日


今日はかぞくみんなでらんせんに来ました。
バルドおじちゃんのお宿にとまって、おいしいおかしを食べていたら、コノエお兄ちゃんとライさんがやってきました。

ぼくがライおじさんとよんだら、ライさんはだまってぼくの頭をグリグリってしました。
カガリお姉さんとおんなじで、おこられたと思ったので、ぼくはライお兄ちゃんと言いなおしました。

だけどライさんは、こんどはぼくのほっぺたを左右に引っぱりました。
やっぱりおこったみたいで、さいごにライさんとよんだらようやくやめてくれました。

ひとの名前って、むずかしいなあ・・・。



「大人げない……」

「あいつ……殺す…!」

「まあまあ。アンタだっておじさんって呼ばれたらちょっと嫌でしょ」

「う…まあ……。あ、これ、続きがあるぞ……」




五めぐりの月 少しかけた月の日


今日、ぼくが宿のうしろでお皿をあらっていたら、お母さんがむこうからやってきました。
ぼくがお母さんをよぼうと思ったら、その前にライさんがやってきて、お母さんの耳もとでなにかを言いました。

そうしたらお母さんがまっかになって、ライさんになにか言いかえしました。
ライさんは「ふっ」てわらうと、お母さんの耳をさわってどこかに行ってしまいました。
ぼくはなんだかドキドキして、お母さんにはなしかけるのをやめました。


ライさんは、すごくかっこいい白ねこです。
ぼくも「ばかねこ」って言ってみたいなあ。




「……(じー)」

「(見られてたの!?) あ、はは……やぁね、カナタ。ちょっと話してただけなのに」

「……本当か?」

「ホントホント。しっかしあの時うつったのね。馬鹿猫ってやめさせないとなぁ……」

「……、目、逸らした……」

「逸らしてないって。……あ、ほら、昨日の日記。これで最後よ」




六めぐりの月 さく月の日


今日、お母さんにすごいことをききました。
来年、ぼくに弟か妹ができるんだって!

ぼくはすごくびっくりして、お母さんのおなかはまだペタンコなのにさわってみたりして、すごくワクワクして、おやつのじかんもわすれていました。

赤ちゃんが生まれたら、ぼくは一番にかわいがってお手伝いしたいと思います。
そうお父さんに言ったら、お父さんは「おれのほうが一番だ」と言って、ぼくにせんせんふこくしました。

ぼく、ぜったいに負けないんだから!




「……なんで同じレベルで争ってんのよ……」

「う……だって、との子供を一番に可愛がるのは俺だ。カナタには負けたくない」

「張り合うところが違うでしょ……。まぁいいけど」


 そう言って、ぱたんとは日記帳を閉じた。眠るカナタの枕元に、そっとそれを置く。
 はつがいに向き直ると、悪戯な視線で問いかけた。

「アンタも書いてみたら? 案外面白いし、字の勉強になるわよ」

「俺が書いたら、毎日のことだけで埋まってしまうが、それでいいのか?」

「…………」

 さらりと言われた言葉に、赤面。いつものパターンだ。
 はゆっくりと首を振ると、つがいの隣に寄り添った。


「書くよりも……それは私に、直接言って」






  END





(2008.11.3)