終焉によせて





 
 ――ねぇライ。私たちは、どうして出会う事ができたのかしら。


 『たまたま森の中に阿呆な猫がいたから』ってアンタなら答えるかな。それとも『そんな下らん事を聞いている暇があるなら足を動かしたらどうだ』って言うかな。
 どう答えるにしても、きっとアンタは仏頂面なんだろうね。


 私はずっと不思議だった。どうして今この時に、アンタと会う事ができたんだろうって。

 鳥唄と刹羅。遠く離れた地で異なる時に生まれて、何の接点もないはずだった私たちがこうして出会って、一時重なって、そして今共に死んでいこうとしている。
 最期の時を、まさか誰かと一緒に迎えるなんて夢にも思わなかったよ。

 ……夢みたい。私、もう身体が動かないのに……今すごく幸せだよ。
 さっきまでは哀しくて哀しくて胸が裂けそうだったのに、今はこんなに落ち着いていられる。
 身体があったかいからかな。アンタの体温と血で。



 私ね、雄が嫌いだった。優しくされても下心が丸見えだったし、発情期ともなれば涎を垂らして家の周りをうろつくし……。皆が皆そんな奴だった訳じゃないけど、それでも雄は怖かった。

 だけど、なんでかな……。アンタの事を、雄として怖いと思った事はほとんどないんだよね。
 そりゃ暗冬で迫られた時はちょっと怖かったし、昨日の……その、夜も少し怖かったけど、私は平気だった。多分、アンタが優しい事を知っていたからかな。

 アンタが私に触れる時、雄の熱の奥に怯えるような光がある事に私は気付いていた。触れるのが怖いような、触れたら傷付けてしまうような子猫のような迷いがある事を。

 アンタはきっと、私なんかよりずっと繊細で傷付きやすいんだろうね。そんな猫を前にして、恐れなんてどこか遠くに飛んでいってしまった。


 いとしくて、切なくて、抱きしめたくて――愛したかった。



 ねぇ。私、ちゃんと約束守ったでしょう……? 『ライ』のまま、逝かせてあげられたかな。

 私……私――アンタの命を奪ったのが自分で、良かったと思う。
 ……知ってた? 私、結構独占欲が強いのよ。だから絶対誰にも渡したくなかった。
 もしもこのためにアンタと出会ったのだとしても、私は自分の運命に感謝したい。

 最期に『 』って呼んでくれたね。もしかして笑ってた?
 見られなくて残念だわ。見えてたら、一緒になって笑ってやるのに。



 アンタが『絆』を信じられるようになったように、私も一つ実感できる事ができたよ。


 アンタを――愛してる。



 恥ずかしいけど、口に出してもいいわ。
 そしたらアンタは、顔を逸らしてまた「阿呆猫」って言うんだろうね。

 本当は戸惑って、照れてるんだって事……私はもう知っているから。

















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