約束



 華やかな宴も終わりを告げ、は軽い疲労感とともに自室へ下がった。もういい加減着慣れてはきたが、宴用の装束は肩が凝って困る。
 寝台に腰かけて簪を外していると、部屋の隅に置かれた荷物が目に入った。……明日、許都から持っていくの私物だ。

(この部屋とも、今日でお別れか……)

 出立は朝早い。赴任先の城は、馬に揺られて何日もかかると聞いた。
 いつか許都に戻ってくることもあるだろうが、それはこの部屋ではないだろう。捕虜時代から過ごしてきた月日を想い、は無言で目を閉じた。

 花や玄徳たちと離れ、襄陽に連れて来られて囚われの日々が始まった。それから烏林での戦い――いわゆる赤壁を経て、許都へとたどり着いた。そして医官として独り立ちした。
 そのすべての日々に、一人の人間が関わっていた。

(……最後に、会えてよかった。ここでの日々が無意味ではなかったって、分かって――)

「……?」

 せわしなく扉が叩かれ、顔を上げる。扉に近付くと、くぐもった声で名を告げられた。
 まさか、と思い慌てて鍵を開けると――

ちゃん……。中に、入ってもいいかな」

「……丞相……」

 かつての所有者であり、そして今はの主君となった男が、息を切らして立っていた。


「……走って、きたんですか? まだ武将の皆さんが話し足りないようでしたのに――」

「そんなの、どうでもいいよ。……今日を逃せば、君と話せる時間はない。だから、元譲を代わりに置いて逃げてきた」

「元譲様を……」

 ここで扉を閉める、という選択肢は立場上には許されていない。そもそもの許可を得る必要だってないのだ。
 それでもわざわざ問いかけてきた孟徳に戸惑いながらも頷くと、部屋の中へと招き入れた。その直後、背後から抱き寄せられる。

「っ……」

「……ちゃん。さっきの宴で、俺のところへ来たのは……どういう意味? 君は俺に、何を求めていたの?」

「……丞相……」

「君の視線が、分からなかった。だから、聞きたいんだ。君の気持ち……。君が俺を、どう思っているのか」

「――――」


 背後から回された腕は、決して強くはなかった。いつでもが逃れられるように、緩やかで。けれどその手が迷うように震えていることに、は気付いてしまった。
 赤い袖をぎゅっと掴むと、体を反転させて孟徳に向き直る。

「私の話を聞く前に……あなたの気持ちを聞かせて下さい。どうして……今夜、私のところに? 今まで、烏林の戦いが終わってからずっと、近付こうともしなかったのに――」

「……それは」

「私を遠ざけたのは、私に飽きたからではないんですか? 明日ここからいなくなるから、最後にもう一度情をかけてやろうとでも思ったんですか?」

「違うよ……! そうじゃない。君が俺を、ちゃんと見ててくれたことに気付いたから――」

 腕の中からじっと見上げると、の視線に孟徳が傷付いたように眉を寄せる。ふぅ、と一息つくと目を合わせ、孟徳は口を開いた。

「俺は……君が好きだよ。もうずっと、きっと、最初に会ったときから。……君を抱いたのは、確かに義務もあった。けどその後に手元に置いたのは、君に……興味があったからだ」

「…………」

「君は俺に抱かれることを、拒まなかったね。快楽には素直だった。でも、どれだけ抱いても優しくしても、心を開こうとはしなかった。……当たり前だ。君は俺に力づくで従わされている『捕虜』なんだから」

「それは――」

「そう思ったら……君が俺の腕の中にいるのも、全部『仕方のないこと』みたいに思えてきて……君を抱くのが、つらくなった。だから遠ざけたんだ。……俺のところから放せば、もっと色々な顔の君が、見られるんじゃないかと思って……」

「…………」

「そのために君と離れることになって、ようやくこんなに大きい気持ちだったんだって気付いたんだけど。……馬鹿だよね、俺も。伝えることに憶病になって、どうしたらいいか分からなくなってた」

 孟徳の顔が、くしゃりと歪む。はその目を食い入るように見つめると、掴んだままだった彼の腕を握り直した。

「……ちゃん?」

「私も……同じです。自分の気持ちに向き合うのが、怖くて……」

「…………」

「丞相のことが……好きでした。いえ…今も好きです。最初はどうしてって思って、否定もして――でも、どうしたって消えなかったんです。仕事をしていても、どこかですれ違わないかとか思ったり――。だけどあなたが離れて、飽きられたんだと思いました」

「……ごめん」

 しょげたように孟徳が呟く。は首を振ると、その目を見つめて微笑んだ。

「元譲様に聞きました。……あなたは他人の嘘が見抜けると。その代わり、自分でも嘘はつかないと」

「元譲……? あいつ、君にそんなことを――」

「私はあなたの言葉を信じたい。……私が嘘をついていないことも、伝わりますか?」


 ――自分の言葉が彼に届けばいいと、想いを込めて見つめる。たとえ信じてもらえなくても、何かは伝わると思いたかった。
 こうして孟徳と正面から向き合ったのは初めてだ。重ねるのは体ばかりで、そんなことさえしていなかった。……できなかった。


「うん。……うん、分かるよ……。君は俺を、見てくれているね。俺を想ってくれているね」

「はい。……あなたが私を、想ってくれたから」

 視線を合わせたまま、距離が近付いていく。孟徳の腕が背中に回され、も自然とその首に手をかけた。
 そして、触れる。……確かめる。

「……っ……。ねえ……このまま君を、抱いてもいいかな」

「っ……。今になって、確認するんですか? 今まで一度だってそんなの――」

「違うよ。今までとは全然違う。……大事にしたいんだ。嫌だったら、今じゃなくてもいい。君が望むときに、君と重なりたいんだ」

「……っ、丞相……」

 ストレートかつ熱烈な物言いに、思わず返答に詰まる。は頷こうとして――けれどやっぱり恥ずかしくなり、そっぽを向いて呟いた。

「……元譲様から、人の心の機微にも敏い……とも伺いましたが?」

 ぼそぼそとした精一杯の返答に、孟徳がきょとんと目を丸くする。そしてしばらくすると、にへら、と相好を崩した。蕩けきったような笑顔には驚く。

「……ひどいなあ、君は。こんなときに他の男の名前を出すなんて」



 並んで寝台に腰かけ、髪を撫でられる。顎を取られて持ち上げられると、甘い造作の顔に苦笑混じりの笑みが浮かんだ。

「その衣装……自分で選んだの? すごく綺麗だ。よく似合ってる。……本当は、宴の場にも出てほしくなかったな。他の男が、目の色変えるから」

「今夜宴に出なければ、会えずじまいでしたが……?」

「……そうだね。でも、誰にも見せたくなかったのは本当だよ。綺麗な君の姿がまた見られたのは嬉しかったけど」

 孟徳の手が、頭に残っていた簪を引き抜く。ぱさりと肩に髪が落ち、遮るもののなくなったそこに指が差し込まれた。
 顔を仰のけさせられると、ゆっくりと唇を重ねられる。

「……好きだよ」

「……っ…」

(あ――、あったかい……)

 宴の余韻を残す吐息が、の耳元をくすぐった。「ちゃん」と掠れた声で囁かれると、全身が総毛立つ。
 ……言葉に込められた重みが、まるで違って感じられる。

ちゃん。……

「っ……、は、い……」

 言葉で愛撫されながら、首筋に優しいキスが落とされる。柔らかな刺激にたまらず首を反らすと、喉元をかぷ、と甘噛みされた。

「っ……、丞相っ……!」

「…………。ねえ、ちゃん。……俺の名前、呼んで?」

「え……?」

 愛撫の手を止め、孟徳が小さく囁いた。懇願のようなその声に、は目を開けて視線を合わせる。

「……孟徳、様……?」

「ううん、そうじゃなくて。……孟徳でいい。君には、様は付けられたくないんだ」

「…………。孟徳……」

「……うん。……嬉しいなあ。そうやって俺を呼ぶ人は、本当に少なくなってしまったから」

「――――」

 孟徳がにこりと微笑んだ。少し寂しげにも見えるその微笑に、目が釘付けになる。

 丞相と呼ばれ、多くの部下にかしずかれていても。大望を抱き、この国を手中に収めんとしていても。
 彼個人を、「曹孟徳」という一人の人間を見ている人は、数えられるほどしかいない。

(この人も――孤独なんだ。そんな人を、私も明日置いていく……)

「……ちゃん?」

 考えないようにしていた痛みが再燃する。きゅう、と胸が締め付けられ、は歯を食いしばった。
 孟徳の頭をかき抱くと、万感の想いを込めて囁く。

「孟徳……。孟徳っ……」

「っ……。うん」

「好き……。あなたが欲しい……!」


 ――覚えていたい。覚えていてほしい。
 距離が離れても、今日この夜のことを忘れたくない。体と心に刻みつけたい。

 情動に突き動かされ、自分から孟徳に口付けた。膝の上に馬乗りになり、向かい合ったまま上から唇を塞ぐ。
 仰のいた孟徳に舌で唇をつつかれ、薄く唇を開くと口内に侵入した熱い粘膜を絡め取った。ぞくりと膝が震える。

「んっ……。孟、徳……っ」

「っ……。なに? ……って聞くのも、おかしいか」

 先を急ぐように胸元をまさぐられ、肩から上着を落とされた。が孟徳を抱きしめているせいで衣は肘に引っ掛かり、中途半端に胸が露出する。
 こぼれた乳房をすくい上げるように持ち上げると、親指で頂をつぶされた。

「っ……」

「……先っぽ、硬いね。こんな刺激でも、感じる?」

「は……い」

「……そう。……君の胸、本当に気持ちいいよ。ずっと触っていたい」

 目を閉じた孟徳が、すり…と乳房に頬を寄せる。柔らかい髪が胸元をくすぐり、は熱い息を吐き出した。その間にも孟徳の手はの腰を這いまわり、中に侵入せんと帯をたぐる。
 下衣を落とされ、足が露わになった。乱れた上着を引っかけただけのしどけない姿に、孟徳が興奮したように吐息を漏らす。

 けれど――今夜は、もう少し。向かい合ったままわずかに体を離すと、は孟徳の肩に手をかけた。


「……ちゃん?」

「あの……待って下さい。今日は、私が――」

「え? ……っ、なに――」

 孟徳の手を制し、赤い豪奢な衣装に手をかける。こちらの服の構造は当初は本当に分からなかったが、目の前で何度も脱がれたおかげでだいたい把握できていた。
 少し苦労をして帯をほどくと、幾重にも重ねた上着の前を肌蹴る。

「えっと……ちゃん。どうしたの? ずいぶん積極的――」

「……嫌ですか?」

「いやまさか。嫌じゃないけど、ちょっと驚いたっていうか――。……っ、ちゃん!?」

 上着を乱した勢いで下衣に手をかけると、孟徳はいよいよ上擦った声を上げた。腰紐を引っ張りが手を差し込むと、ぎょっとしたように腰を引く。
 逸るような気持ちでその奥の雄を露出させると、それは芯をもって首をもたげ始めていた。

「いや……そうまじまじと見られると、俺もちょっと恥ずかしい気が――」

「……舐めてもいいですか?」

「え――。ええっ!? い、いいよ、そんなことしなくても!」

「でも――」

 ……彼に何か、してあげたかった。今までできなかったことを、全部。
 自分のすべてを使って、喜ばせてあげたかった。

 の顔を遠ざけるように、孟徳の左手が頬にかかった。火傷の痕が残るその手を、は逆に握りしめる。そして、自分の唇へと導いた。

「っ……、ん……」

「う、わ……」

 残された傷痕といまだ残る心の痛みを癒すように、温かな手に舌を這わせる。いびつな皮膚に、丹念にキスを降らせた。
 目を見開いた孟徳がその光景を見下ろす。雄を咥えるように指を一本一本舐め上げると、ごくりと喉仏が上下し、露出した雄がふるりと勃ち上がった。

「やらしー……。っ……。ごめん、やっぱり――」

「……はい……」

 左手で首をくすぐられ、やんわりと頭を押し下げられる。
 孟徳自身と対面したは、それを両手で包み込んだ。胸から腹、腹からその先へと唇を滑らせると、硬くなった表面にそっと舌を押し付ける。

「……あんまり、強くしないでね。……出ちゃいそうだから」

「っ……」

 顔は見えないが、少し困った風の声音に苦笑が漏れた。……ちょっと可愛い。
 舌で何度か幹をなぞると、濡れはじめた先端を唇に迎え入れる。

「……っ。、ちゃん……ッ!」

「……ン。……っ、ふ――」

 舌を滑らせると、頭上の声が一気に切羽詰まったものに変わった。その声が愛おしくて、嬉しくて、の動きにも熱が入る。
 舌全体を使って幹を擦り上げると、先端を舌先でくじる。何度も舐め上げると、頭を撫でてくれていた孟徳の指が強張り、髪をかき乱した。

「うわ……、ちょっと、強い、かな……っ。……ちゃん、待って。ほんと、まずいから…!」

「……っ……」

 ……出したかったら、出してもいいのに。けれど、顎も少し疲れてきた。
 はぁ…といったん唇を離すと、身を乗り出した孟徳の手でするりとショーツを引き下ろされる。

「ね……ちゃん。こっち向いて? そのまま……俺に、またがって……」

「え……」

 掠れた声で、孟徳が呟いた。何を言われたのか分からなくて顔を上げると、唇を歪めた彼が手で指し示す。

「あ…の、でも……」

「いいから。……俺も君に、したいよ。恥ずかしがらなくていいから……言うとおりにして」

「……っ、はい……」

 孟徳が何を求めているのかを悟り、の頬がカッと赤く染まる。体を反転させ、彼の顔をまたぐように四つ這いになるとぐっと足を割り開かれた。

「っ……! 丞相っ!」

「……孟徳だよ。忘れちゃった? ………すごい……濡れてるね。俺の舐めながら、感じてた?」

「…………。は、い……」

 孟徳の顔の上に晒されているだろう、あられもないその場所の状態を想像してはきゅっと身をすくめた。
 熱い息が濡れたそこにかかる。ツ…と亀裂を撫でられ、喉の奥から押し出されるような嬌声が漏れた。

「あっ……!」

「……可愛い。ぬるぬるだね。俺が触ると、どんどん溢れてくる……」

「やっ……。……んな、こと、言わないで下さっ……」

「そう……? じゃあ…こうしたら、どうなっちゃうのかな」

「んう……っ!」

 腰を引き寄せられ、ぬめった舌がそこに触れた。尖った先端でひだを割り開かれ、中に押し込まれる。
 そのまま芽の方まで舐め上げられると、体を支えた肘がくず折れそうになった。チュッと芽を吸い上げられ、内腿がびくんと引きつる。

「あっ、…アッ……! 強く、しないで……! やぁ…っ!」

「駄目。さっき、たくさん君にされたから。……きつかったら、俺にしがみついてて……っ」

「んッ……!」

 下方から聞こえる水音が、激しさを増す。イイところを知っている指と舌が巧みにうごめき、は切れ切れな喘ぎを漏らした。孟徳の腹の上に、何度も豊かな乳房が押し付けられる。

「……まずいなあ。気持ち良くて、俺の方がいっちゃいそうだよ。君の胸、本当にずるいよね」

「っ……! んんっ……、っあ……」

 孟徳の上でうずくまりながら顔を上げると、勃ち上がった雄が震えているのが見えた。はそれを掴むと唇へと導く。
 孟徳の動きに翻弄されながらも懸命に舌を使うと、体の上と下から水音が響いた。

「っ……、すごく……気持ちいいよ。君も、気持ちいい? ……これも、したことがあるの?」

「……っ、いいえ……」

「そっかぁ。……俺も、初めてなんだ。君とお互い初めてできることがあって、嬉しいよ」

 顔は見えないが、本当に嬉しそうな口調で言われ、思わず赤くなった。……子供みたいだ。
 実際やっていることは、淫らにもほどがある行為だったが。

 勃ち上がりきった孟徳を視界に収めると、は体を起こした。……これ以上いじられたら、先にイってしまう。
 もう一度孟徳に向き合うと体を起こそうとした彼を制し、その腰にまたがった。

「……ちゃん?」

「あの……このまま――」

 ……挿れてもいいですか。続く言葉は声にならず、は目を伏せて顔を赤らめる。
 すると目を見開いていた孟徳が、苦笑いで頬をすり…と撫でた。

「本当に君は……どこまで俺を喜ばせるの? ……いいよ。ちゃんの好きにして」

「…………、はい」


 腕に引っ掛かっていた上衣を落とされ、すべてさらけ出した格好で、互いに向き合う。
 雄の根元を掴み、腰を浮かすと仰向けに寝そべった孟徳に動きを誘導された。先端を亀裂に押し当てると、はゆっくりと腰を下ろしていく。

「……あ……。……っ」

「っ……。嬉しいよ、君がこんなに、してくれるなんて」

「そう…ですか……?」

 目を合わせたままでいるのが恥ずかしくて、は眉を寄せるとやや上方を見上げた。知らず、胸を突き出した煽情的な格好になり、切なげながらも淫靡な表情と相まって孟徳が喉を鳴らす。
 自分から挿れるのは初めてだったが、挿入はスムーズだった。……何度も慣らされた体が、ちゃんと孟徳を覚えていた。

「ん……。全部、入った、かな……。……すっごい眺め。今にも出ちゃいそう」

「え……? ッ、あ――」

 すべてを収めてホッと息をつくと、下から孟徳が胸を掬うように持ち上げた。重みを楽しむように軽く揺らすと、先端を指でなぶる。

「ね……動いて。君が俺を欲しがってくれているとこ……もっと見たいんだ」

「は、い……。ッ……、よかったら……教えて、下さい」

「もうすでに最高なんだけどね。……ッ、……ああ、すごい…、気持ちいい……」

 胴体の横に手をついて、ゆっくりと抜き差しを開始する。
 ……騎乗位なんて、ほとんどやったことがない。どう動けばいいのか分からなかったが、孟徳の形に合わせて腰を揺さぶると自然と馴染んでいった。

「……ッ、あっ……。孟徳っ……。――もち、いいですか……?」

「うん……。君の胸が揺れて……たまらないよ。……もう俺、死ぬんじゃないかな。気持ち良すぎて死にそう」

「ふふ……っ、何を――。……あっ! あ!?」

「うん、だから……ちゃんも、一緒にいって?」

 眉を寄せ、歪んだ笑みを浮かべていた孟徳がすっと腕を伸ばした。片腕での腰を引き寄せると、もう片方の手が濡れた音を上げる結合部へと差し込まれる。
 二人が繋がった箇所を撫でると、の動きに合わせて充血した芽を擦り上げた。

「あ! あっ…! だめ、です…! 動けなくなる……っ」

「そしたら、俺が動くよ――。……ね、ここ、気持ちいいでしょ? すっごい中が締まる」

「ん…! ああッ……!」

 外から感じる場所を責められ、の動きが止まった。自分の上で悶える女を、孟徳が恍惚の表情で見上げる。
 の腰を両腕で抱えると、孟徳は下から腰を突き上げた。

「俺にっ、合わせて……。二人で、気持ち良くなろう……っ」

「ん……、あ…! ……あ、……ああっ…!」

 寝台を軋ませて、孟徳が強く突き上げてくる。以前の、「丞相と愛妾」という立場のときには見られなかった切羽詰まった様子に、は胸が締めつけられた。
 ……こんなに余裕のない彼は、初めて見た。初めて触れたような孟徳の激しさに、呼応するように体が熱くなる。

「……徳…っ、孟徳……ッ! あ……も、ダメ……ッ!」

「うん、いいよ、いって……! 俺も、いく、から……っ」

「んっ…! ―――ッ!!」


 孟徳の肩を掴み、は体を震わせた。背筋を通り抜ける快楽にぎゅっと目をつぶって耐えると、吐息とともに目を開く。そのまま何度か緩んだ中を穿たれ――

「……んっ、……あ……」

「――っ、く、……あ……!」

 熱を引き抜いた孟徳が、臀部に欲望を吐き出した。



「…………。ごめん……。おしり、汚しちゃった……」

「い、え……。私、こそ、先に―――」

 を上に乗せたまま、荒い息で孟徳が髪をかき上げる。そのまましばらく二人で息を整えると、遠慮がちに身を引こうとしたを強い腕が抱き寄せた。バランスを崩し、孟徳の腕の中に倒れ込む。

「あっ……」

「……あー。あったかい……。……すごい良かった。最高だった。先に出しちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしたよ」

「そうは見えませんでしたが……」

 がっちりと抱きすくめられ、胸元にすりすりと顔を寄せられる。自然とが孟徳を抱きしめる形になり、顎の下で揺れる髪にはおずおずと手を伸ばした。

「んー。……いいね。甘やかされて、眠りそうだよ。柔らかいし、あったかいし、なんだろう……極楽?」

「っ……」

 子供のようにストレートに表現され、思わず笑ってしまった。この人――実は、甘えたなのかもしれない。
 その心情が伝わったのだろうか。顔を離した孟徳が、拗ねたように呟く。

「……行かせたくないなあ。赴任の許可なんて、出さなければ良かった。君とずっとこうしてたいよ」

「っ……」

 冗談のような口調に――孟徳の本音が、滲んでいた。言葉に詰まったに、孟徳は続ける。

「裁可を出すとき、迷ったんだ。赴任することは、絶対君の糧になるけど……ここでも医官として働けないわけじゃない。俺のこと、見てくれなくてもそばにいてくれた方が安心できる。でも、他の男と一緒になる君はできれば見たくないなぁ…って」

「そんなつもりは……ありませんでした。どこにいても、きっと私はあなたのことを――」

「……うん。今ならそう信じられるよ。でも、その時はやっぱりそれが怖くて……君のために、これが一番いいことなんだって言い聞かせて、判を押した。……ごめん、心の狭い男で」

「…………」

 は無言で首を振った。……私人としての気持ちを抑え、公人としてを想い、許可してくれたのだ。それを責める気持ちなど湧いてくるはずもなかった。

「必ず……帰ってきます。ここに、あなたのもとに。……離れるために行くわけじゃない。私は、この国であなたを支えるために……あなたのそばにいても、恥ずかしくない自分になるために、行くんです。……許可して下さって、ありがとうございます」

「うん……。うん、君は強いね。じゃあ俺は、君の言葉を信じて待つよ。君の望みを、叶えられるように……」

「……?」

 顔を上げたに、孟徳が眉を下げる。泣きそうにも見える微笑をたたえて孟徳は囁いた。

「前に聞いたよね。何が欲しい?って。……約束する。君に、安らかで戦のない国を見せてあげるよ。俺はそのために、頑張るから……」

「っ……、あ―――」

 ――そんなことを。あんな、他愛もない戯言のようなやり取りを、覚えていてくれたのか。
 言葉の重みと、それ以上に、嘘をつかない孟徳が与えてくれた「約束」に、涙が盛り上がってこぼれ落ちた。
 ……彼なら、きっと叶えてくれる。

「――っ……、はい……。信じて…います……」

「……うん。それが終わったら……君と一緒に暮らしたい。君の作るご飯を食べて、君と子供を育てて、君と一緒に眠りたい。それだけでもう……俺は、十分なんだ」

「……はい……、っ……」

 止まらない涙が頬を濡らしていく。目を閉じて笑った孟徳を、は再び抱きしめた。





 そして翌日――

 許都の城門から、医官を乗せた馬車がひっそりと出立していった。
 行き先は遠く、手の届かない場所。手は届かないけれど――心はきっと、繋がっている場所。

 孟徳はそれを、見えなくなるまで見送っていた。いつまでもいつまでも、見送っていた。





  END


トリは丞相で。前回がアレだったんで、できる限り甘くしてみました。…これでもな。
巨乳設定なのに、そういえばあまり生かせてなかったな…と反省し、赤い人がおっぱい星人になりました(笑)
でも歌妓も巨乳だったし、あの人もともと、グラマラスが好みなんじゃないかと思う。
書いてて気付いたんですが、孟徳と薄桜鬼の沖田って口調が似てる気がします。森久保ボイスでも違和感ないかも。

これで恋戦記は最後だ!と思ったんですが、リクエストを頂いたのでちょっと書いてみようかと思います。
エロを4作ぶっ続けで書いて、楽しい年末でした(笑) それでは皆さん、よいお年を!
(2010.12.25)