は暗闇の中にいた。ゆらゆらと記憶の縁を彷徨う。周囲は足元も天井も分からないような真の闇だ。そんな場所にいるのに、恐怖も動揺もない。

 そうしてどれ程の時が経ったのだろうか―――ふと、前方に紅い光が現れた。そこに向けて は躊躇いなく進むと、静かに目を覚ました。





        11、緋の記憶は遠く






(え……)

 ―――そこは、自分の部屋ではなかった。宿の中ですらない。……なぜか、暗い森の中に は倒れていた。

 声にならない声を上げて目を見開くと、今度は正面に不吉な黒い光球が生まれた。それを は……いや、 ではない。心は確かに自分のものなのに、肉体は別の精神が動かしている――― が入った雌猫が、息を切らして見上げていた。


(私じゃない……。誰―――?)


 光球が消え、その後に一つの影が落ちる。どうやら猫のようだった。
 その姿は―――まさか、あれは……!

(リークス……!?)



『……良かった……来たのね……。あなた、私に何の術を掛けたの……。こんな事をしても……何にもならないわよ―――』


 驚愕した の意識とは裏腹に、突然唇が動いた。
 身体は己の力では動かず、 は自分の入った雌猫とリークスの会話を見守る事しかできない。すると掠れてヒューヒュー鳴る喉を動かして、 と似た声が闇夜に小さく響いた。


『まさか……操られるのが苦で、自分で傷を付けたのか。そんな、なまくらの剣で……』

『正気がある時じゃないと……できないからね……。どうせ、もう意識は持たないんでしょ……?』

  には痛みは伝わらなかったが、周囲は血の海だった。誰でもない、この猫の身体から溢れる血液だ。
 己の赤い髪をさらに赤く染め、最期の力を振り絞って見上げる猫に、リークスはわずかに強張った表情を浮かべていた。


『なぜ……そこまでして私を追うのだ』

『別に……追ってる訳じゃなかったわ。出来ることなら術を解いてほしいけど……無理なんでしょ。それならただ、聞きたいだけなのよ……。シュイが……どうして死んだのかを……』

(シュイ……?)

 その名を出した時、リークスの顔に暗い怒気が閃いた。こちらを嘲るように見下ろし、顔を歪める。まだ癒えない傷を抉られたかのように、リークスは憎々しげに呟いた。


『……愚かな雌だ。私が殺したとは思わんのか』

『……あなたじゃ、ないわ……。だってあの子、あなたの事をいつも嬉しそうに話してて……。シュイは抜けてるけど、猫を見る目は……あったわ。だから、あなたじゃ……ない』

『……っ』

 雌猫の声が徐々に小さくなっていく。もう……限界なのだ。だけど にはどうする事もできない。雌猫は血を吐くと、再び声を発した。


『でも……知ってる事があったら、教えて欲しいのよ……。あの子が死んで、悲しんだ猫が沢山いるの。ただ……真実を、知りたいだけなのよ……。お願い……』

 呟いた雌猫に、リークスは一歩後ずさった。その様子はまるで、怯えているようにも見える。
 再び光球を生み出すと、リークスの姿は徐々に薄れていってしまった。


『待って……待っ、て…………』

 雌猫が手を伸ばす。だがその手がリークスに届く事はなく――― の視界は、完全な闇で覆われた。







(これ、は―――。まさか、この猫は……)


 たった今展開された衝撃的な映像に、 は声を失っていた。だがそれに浸る間もなく、またもや光に包まれる。今度は、温かな炎の色をしていた。








『もう、限界じゃろ。いい加減に手を引いたらどうじゃ』

『駄目よ……。弟の……シュイの死の理由が分かるまでは、諦められないわ』


 次は、あの呪術師の祠の中だった。 が入った雌猫は暗い洞窟の壁に寄り掛かっている。
 ところどころ怪我をしているようだったが、先程より傷は深くない。……どうやら時間を遡っているようだった。


『術を掛けられているのを、分かっておるのだろう? おぬし、そう長くは持たんぞ』

『そうね……。もう、自我がない時間の方が多いわ……』

『それでも追うのか……。何故、おぬしが来たのじゃ? おぬしには夫も守るべき娘もおるのに、何故あの猫の妻でもなく、おぬしが―――』

 炎の前に立つ猫……呪術師が、 の記憶どおりの淡々とした調子で雌猫に問い掛けてきた。すると、疲労した様子の雌猫はかすかに笑った。


『私しか、いなかったからよ。……あの子は身ごもっている。シュイの血を引く子をね……。そんな猫を死なせる訳にはいかないわ。だけど私には―――彼がいる。 にも彼がいる。だから私が一番……適任だったのよ。まさか、こんな事になるとは思いもしなかったけど』

『だとしても、おぬしも力ある賛牙じゃろう。誰か闘牙と組めば良かろうに……』

『……別に、倒そうと思って訪ねたんじゃないもの……。それに他の猫を巻き込む訳にもいかないわ。これは、私だけの我侭だから……』

 ほう、と雌猫が笑い混じりの溜息をつく。その言葉には静かな諦めと、他の猫を巻き込まずに済んだという安堵が滲んでいた。


『リークスを、憎んでおるか?』

『……いいえ? もしも噂どおりあの猫がシュイを殺したのなら、憎むけど……多分、違うから。私は会った事はなかったけど、本当に仲が良かったのよ。だからこんな風に言われて……リークスも、可哀想ね……』

 身体を起こした雌猫が、少々危ない足取りで呪術師の前へと歩む。その足元に跪くと、雌猫は頭を下げた。


『だけど……私にこんな術を掛けた事だけは憎んでるわ。この間のお願い―――どうしても聞いて欲しいの……。私が死んだら、あの子の賛牙の能力を封印して。リークスに、気付かれないように……』

(私……?)

 突然引き出された話題に は息を呑んだ。かすかな興奮をもって、目の前の会話を見守る。

『……またそれか。私は専門でないと言うに』

『あなたしか、もう頼れないからよ……。リークスは、シュイを憎んでいるわ。それに私の事も。……杞憂ならいい。だけど、もし の能力をリークスが察知して追うような事があったら……っ。あの子、シュイと似た力を持ってるから、きっとリークスを刺激するわ。その前に―――』

 母の顔になった雌猫が、必死で叫ぶ。……中に入っている には見えなかったが。
 呪術師はしばらくこちらを見下ろした後―――根負けしたようにしぶしぶ頷いた。


『仕方ないのう……。何度も言うが、専門でないゆえきっといつかは術が切れる。それでも良いなら……受けるとしよう』

『―――ありがとう……! あ……それと、もう一つ……。彼があの子と一緒にきたら―――この剣を、渡してほしいの』

 ゴトリ、と雌猫が剣を足元に置く。呪術師もさすがに目を丸くした。その剣は―――


(―――! それを渡したら……!)


 ハッと目を見開き、 は叫んだ。その言葉の先を呪術師が代弁する。

『しかし……これを手放しては、おぬしを守るものが……』

『いいの。彼が私のために作ってくれた剣を……これ以上、汚したくないのよ……』

 雌猫は笑ったようだった。大切な剣を手放し、立ち上がる。


『お願いばかりでごめんなさい。でも……もし万が一、将来 がここに来るような事があっても、私の事は話さないで』

 凛とした雌猫の声に、呪術師は目をわずかに見開いた。面白がるように顎に手を当てる。

『それは……おぬしの死の理由を、教えないという事かの。子ならば知りたがると思うが?』

『ええ。でも彼にもあの子にも、そう言ってあるの……。私とシュイの関係を伝えず、私たちの代で終わらせられるように、って。言ったら――きっと重荷を背負わせてしまうわ。子供たちには関係ない。何も知らずに、まっさらな状態で育ってほしいの。憎まれても……悲しい思いをさせるよりはいいわ』


 それだけ言って頭を下げると、雌猫は踵を返して歩き始めた。祠を出る寸前で振り返らないまま呪術師に告げる。その声は、はっきりと掠れていた。


『もう一つだけ……彼に、伝えてほしいの。「愛してる、ありがとう」って……言っておいて……』



(っ!! ―――待って! 行かないで! ……行っては駄目!!)



 走り出した雌猫に は叫んだ。このまま走り続ければ―――先程の光景へと、雌猫は辿り着いてしまう。それは絶対的な終焉であった。

 こんな哀しい光景が見たかったのではない。こんな悲痛な過去を知りたかったのではない。
 だが の叫びも虚しく、視界は再び暗転した。 はうずくまり、頭を振って叫んだ。







(もうやめて……。 もう、いや―――!!)








 次の光は、抜けるような青色だった。目を閉じ耳を塞いだ だったが、穏やかに頬を撫でる風に誘われてふと目を開いてしまった。


『可愛い子……』

 ……そこは、あの鳥唄の我が家だった。いや、何となく造りが新しいような気もする。
 今度の雌猫は、膝の上に―――金髪の赤子を抱いていた。

(―――!)

 あれは……もしかしなくとも、自分だ―――。乳でも与えられたのだろうか。満足そうな顔で瞬きを繰り返している。
 脱力して崩れ落ちそうになった の意識は、その時室内に飛び込んできた猫の姿に引っ張り上げられた。


『……姉さん! もう産まれたんだって!?』

(! ―――歌うたい……!?)


 現れた雄猫は―――雌猫と同じく赤い髪をしていた。息を切らし、室内に入ってくる。
 その穏やかな顔の猫は……あの暗冬最終日に助けてくれた歌うたいだと、 は顔を見た事もないのに何故だか確信した。


『ああ、その子が だね? ―――うわぁ……小っちゃくて可愛いなあ……』

『シュイ……。アンタ、藍閃にいるはずじゃ……』

 膝の上の赤子を覗き込んだ雄猫……シュイに、 の母親が戸惑った声を掛ける。するとシュイは、悪戯がバレた子猫のように小さく笑った。

『義兄さんから手紙を貰ったら、居ても立ってもいられなくて飛んできてしまったよ。……ね、義兄さん?』

 シュイが振り返る。すると開きっぱなしだった玄関から、雄猫が姿を現した。


(…………父、さん……)


  は泣き出しそうになった。いや、肉体があればボロボロに泣いていただろう。
 金髪の父は…… の最後の記憶にある、失躯でやつれた姿ではなかった。若々しく健康そのものの雄が、赤い髪の姉弟と我が子を寡黙だが温かい眼差しで見つめていた。


『顔立ちは姉さんに似てるかな? でも髪は完璧に義兄さんだね。瞳は―――』

 すると、それまで眠りかけていた赤子がパッチリと目を開いた。まるで言葉が通じたかの様子にシュイが笑って覗き込むと、その顔が更に輝いた。

『緑だ……。わあ、私や姉さんと一緒だね……! 嬉しいなあ……』

 相好を崩したシュイに、その場の空気はより和んだ。雌猫から赤子を受け取り、おっかなびっくり抱いたシュイが蕩けるような笑みを浮かべる。


『可愛いなぁ……。私にも、こんな子が生まれたらいいなあ』

『こら、アンタこないだ結婚したばかりでしょうが。まさか子供目当てじゃないでしょうに』

『それはそうだけど……ふたりよりも、家族は多い方が楽しいじゃないか』

 ね? と同意を求めるような視線を父親に向け、シュイは再び顔を戻した。


『私に子供が生まれたら……この子は、仲良くしてくれるかな?』

『するんじゃない? そのうち親同士よりも仲良くなって、アンタが仲間はずれになったり―――』

『え、そ、それは嫌だな……』

 にやり、と意地悪く告げた雌猫に向かい、シュイがおろおろと視線を彷徨わせる。助け舟を出すように父親に肩を叩かれ、シュイは勇気を取り戻したように意気込んだ。


『でも、雄でも雌でもいいから子供が出来たら嬉しいよ。……実はもう、子供の名前も考えてるんだ』

『はぁ!? ―――ぶッ、ちょ……っ。気が早すぎ……ッ』

 真顔で告げたシュイに、母親が噴き出した。シュイは得意げに目を閉じた。


『いくつか候補はあるけど、そうだな……。雄だったらコノエ、雌だったら―――…………』







 記憶は、そこでふっつりと途絶えた。最後に見たのは若い父と歌うたいと青い空で―――胸が痛くなるくらい平凡で、ささやかで、他愛もない……幸せな記憶だった。









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  はゆっくりと目を開けた。今度は深遠の闇ではなく、うつつの世界だった。
 寝そべっていた重い身体を起こすと、頬が濡れている事に気付いた。 は歯を食い縛ると、こらえ切れぬ嗚咽を漏らした。

「父さん……っ、……母さん……!」


 母を―――想いを込めて呼んだのは初めてかもしれなかった。
 父からおぼろに聞くばかりの、記憶のない母の姿はいつもどこか遠かった。それが今になってようやく……熱を持った、命を授けてくれた存在として心に落ちてきた。

  は今まで顧みる事も父に問う事もなかった自分を悔い、母の深い愛を想って涙した。












 どれくらいの時間が経っただろうか。ようやく落ち着いてきた は、自分の置かれた状況を考える余裕が出てきた。

 ここは……どこだろう。暗い球体の中に閉じ込められているようだが、わずかに向こうが透けて見える。―――どうやら、どこかの森のようだった。

 コノエと重なって、それから夜中に起きたらコノエがリークスに乗っ取られていて……拉致されたのだろう。迂闊な自分に舌を打つ。
 だが取り合えず危害などは加えられていないようだ。一応確認しようと重い身体に目を向けた は、次の瞬間ギョッと目を剥いた。


「な……何これ!?」

  は当然だが、普段の服を着ていなかった。それはそうかもと思っていたが……何故か、明らかに自分のものでない服をいつの間にか着せられていた。
 黒く、身体にフィットするコートには……物凄く見覚えがある。

「アイツと同じデザイン……!? ちょ、勘弁してよ……!」

 そう、 はリークスのものと酷似した服を着せられていた。雌向けにサイズ調整されているあたりが物凄く嫌だ。しかも足元はパンツではなく、長いスカートに覆われていた。動きにくい事この上ない。

「……く、そ…ッ! 破ってやる……っ」

 見栄えなどどうでもいい。 がその裾に手を掛けようとしたその時―――


「……何やってんの? お前なんかがリークスさまから頂いた大事な衣装を、粗末にしないで欲しいなあ」

 パチンと黒い球体が割れ、フィリが醒めた目で を眺めていた。
 







「歩けるだろ? 待ちくたびれちゃったよ。……リークスさまがお待ちだ」

「アンタ……」

  を迎えに来た者は、先日の不可思議な違和感などものともせず、相変わらず生意気そうな視線で顎をしゃくった。 の返答も待たず、どこかへ歩き始める。 も慌てて立ち上がるとその後を追った。
 正直なところ、足の間に鈍い違和感があったが、今はそんな事に構っている場合ではなかった。



 その場所は、見れば見るほど奇妙な空間だった。天井が高く、巨大な花が咲き乱れている。……不気味な部屋だ。

 どこをどう進んだのか、二匹は更に開けた空間に辿り着いた。フィリはちらりと を見るとそのまま何処かへ消えてしまう。
  が正面に顔を戻すと、広間のような部屋の中央に……祭壇と魔方陣の方を向いた、黒い後姿があった。今日はフードを被っていないが、間違いない。……リークスだ。


「随分と遅かったな。楽しい夢は余程離れがたかったと見える」

「……っ」

 その言葉で は、先程の記憶はリークスの介入によって見せられたものだと悟った。
 何故そんな事をするのか意味が分からない。けれど、自分たち親子の過去を土足で踏みにじられたようでカッと頭に血が上った。
 それを自覚して抑えると、 は口の端を吊り上げて声を発した。


「情事の後の雌猫を全裸で拉致して、その上監禁とは―――やる事がいちいち最低ね」

「お前の裸にも身体にも興味はない」

「あっそう。それは悪かったわね、大したコトない身体で。……それとも闇の魔術師様は雌日照りで、そんな感情も忘れちゃったのかしら?」

 震えそうになる唇を無理やりしならせると、リークスは不快そうに「ふん」と溜息をついた。
 くだらない挑発をするのは、そうでもしないと敵の只中に……しかも母親を殺した相手の前にただ一匹で立っているのが、たまらなく恐ろしくなるからだ。
  は震える声のまま、黒い後姿に問い掛けた。


「……何故、母さんを殺したの」

「前に言っただろう。鬱陶しく突っ掛かってくるから、実験台にしたと。あの雌は弟を殺したのは私ではないかと疑い、全てを捨てて飛び込んできた。私の目の前にな」

 何を今更、と言わんばかりにリークスが両手を上げる。その態度に は激昂した。

「違う! お前は嘘をついている。母は……母さんは、お前の事なんて一片も疑ってなかったわ! ただシュイ叔父さんの……コノエのお父さんの死の真相が知りたくて、一番親しかったお前に聞きに来ただけよ! それを、よくも……!」

 ギリ、と歯を食い縛った は気付かなかった。リークスがわずかに、 の言葉に反応した事に。リークスは一度鼻を鳴らすと、低く呪うような声で告げた。


「あの猫は死んだ。けれど近く関わった者は、まだ生きていた。お前の能力の事は予想外だったため見過ごしたが……自分から私の手の内に飛び込んできたあの姉には、それ相応の運命を用意してやったまでよ。そしてコノエには……私の感情の器としての、運命を」

「え……」

 予想外の言葉に は目を見開いた。コノエが……何?
 訳が分からず呆然とした には構わず、リークスは神託を告げる神官のように厳かに、そして重々しく告げた。


「コノエは……私だ」


 草色の頭が振り返る。既視感のあるその髪に が目を眇めると、やがて白い肌が見えた。
 今日は仮面も着けておらず、露わになったその顔は……その、顔は―――!

「……ッ!!」

 ―――コノエ、だった。


 




「どう、して…………」

  は足元をよろめかせると、掠れた声で呟いた。呆然としているのに、目の前の顔から目が逸らせない。
 リークスは――― の愛しい猫とよく似た顔をしていた。そのものと言ってもいい。コノエがあと何年か長じれば、このような顔になるだろう事は察しがついた。浮かぶ表情は違えども。

 だけど……何故。一声を発したきり黙りこんでしまった に、リークスがスッと歩み寄った。そして黒衣に覆われた の腕を掴む。

「!」

「愛する猫によく似ていたか? ……だが、あれは本体ではない。コノエは私から生まれた一部にして、感情を受け入れる器に過ぎない」

「……っ……」

 手を振り払えない。 は魅入られたように、リークスの瞳に釘付けになっていた。
 目を逸らそうとしても身体が拒否をする。 はそのとき……この空間に入った瞬間から、己の身も心もリークスの力に囚われていた事を思い知った。


「お前の見ているコノエなど……本当は、どこにもいない」

「や、め―――、―――ッ!」

 リークスの瞳が紅く光る。その唇が睦言でも囁くように小さく何かを唱えると――― の意識は一瞬にして、暗い闇に侵された。



 緑の瞳が隠れ、金糸をたなびかせて の身体が崩れ落ちる。リークスはそれを片腕で抱き止めると、端正な顔に歪んだ笑みを浮かべた。



















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