「――うそ。休館日って……」

 正午も近い午前、 は図書館の扉の前で小さく声を上げた。




    25、不調




 今日は朝から少し体調が悪かった。どこがと言う訳でもないが、なんとなくだるい。
 そのまま寝てしまおうかとも思ったが、せっかく予定もない事だし、気分転換を兼ねて は念願の図書館に行ってみる事にした。

 悪魔などに関する資料と、それから個人的な鍛冶の資料。
 そういうものを期待してバルドに書架の場所を聞こうと思ったのだが、こんな時に限ってバルドは朝から姿が見えなかった。仕方なく、書き置きを残して は宿を出てきた。


 街中にも猫の姿は少なかった。不思議に思い歩いてきたが、目的を決めた事で気分が上昇したこともあり、 はさして深く考えずに図書館へと辿り着いた。

 しかし、この看板。ここまで来たのが徒労に終わったのを悟り、 は思わず肩を落とした。
 そのまま帰ろうかと思ったが、恨みがましく扉に手を掛けてみる。するとそれは難なく開いてしまった。


「うわぁ適当……。でもスイマセン、お邪魔しまーす」

 いかにもおざなりな管理に呆れつつも、 は周りを見回すとするりと扉の内側へ入り込んだ。そしてそのまま扉を閉める。
 この前入った建物と対になる広い館内には、当たり前だが猫の姿はなかった。猫の目が遮られたことに少々ホッとしつつ、 は目当ての本を探して冷えた館内を歩き始める。幸いまだ外が明るいこともあって館内にも薄く光が差し込んでいたため、目的とする書架にはすぐに辿り着けた。


 それから数刻、 は本を漁って読みまくった。悪魔のこと、賛牙のこと、鍛冶のこと――興味深い文献は多々あったが、次第に朝から感じていた不調が本格的に酷くなってきたのに耐え切れず、 は本を閉じると口元に手を当てた。

「ヤバ……限界かも――」

 冷えた場所に長くいたせいだろうか。まだ歩けるうちに早めに帰ったほうがいい。
 そう思い が本を片付けて館内から出ると、外の空気に触れて頭痛がより一層酷くなった。
 心なしか、胸も苦しくなってきている。そして呼吸がせり上がり、体中を妙な熱が駆け巡っていった。

(なに――? なんか、変……)

 堪らずにその場にうずくまった は、ぼやける脳裏である一匹の猫の事を思い浮かべた。





 年下の茶色の耳の猫を


 子供のように見つめてくる黒い猫を


 薄い色の瞳で見下ろす白い猫を


 からかうように笑う虎縞の猫を

 

 


 

 

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